トランスジェンダーは大学で「通称名」を使えるのか?

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トランスジェンダーやXジェンダーの人たちが日常生活で要請していることのひとつに、「身体の性別に基づいて付けられた名前ではなく、自分のセクシュアリティに準ずる名前(通称名)を使って生活がしたい」というものがあります。

さて、就活を控えた学生にとって、身分証明書と言えば学生証です。学生証にも通称名を使いたい、という需要はもちろんあると思います。
大学では通称名の使用についてどのように対応しているのでしょうか。

通称名を使える大学も多い

文部科学省は、「(トランスジェンダーの通称名使用に関して)通知は出しておらず各大学での対応」としており、現状では各大学がそれぞれ対応しています。

今年1月には、北九州市立大が性同一性障害(GID)の学生の要望を受け、「心の性」に沿った通称名使用を認める制度を始めました。

この他にも早稲田大学など、通称名が使える大学は増えてきており、明確に制度がなかったとしても、相談をすれば対応してくれる大学も多いようです。

改名をするときにも通称名は重要

現在は通称名だけれど、いずれ戸籍も変更したいと考えているトランスジェンダーにとって通称名を使うことは重要です。

なぜなら、改名の手続きを行うためには通称名を日常的に使用していることが必要だからです。

手紙の宛先や職場での名札などがその一例ですが、大学での通称名の使用はそれに代わる大きな証拠になることができます。

学生証などに明記されていれば、準公的な身分証として通用していることになります。

通称名に変更するだけでは解決されない問題も

名簿や学生証を通称名に変更するだけでは解決されない問題も残っています。

名簿の名前は通称名だけれど、性別欄が身体の性別のままになっている場合などです。
下記のような事例もあります。

T: ある授業では、先生がコミュニケーションの一環として名簿でF(女性)と書いてある人に「彼氏はいるの?」というような質問で場を和ませることがありました。
そのクラスで僕は男子生徒として過ごしていたのですが、名簿にはF(女性)と書いてあるので、先生からは「彼氏いるの?」と聞かれました。

参照:早稲田大学 一人ひとりが輝くキャンパスへ WASEDA LGBT ALLY WEEK開催にあたって
https://www.waseda.jp/inst/diversity/news/2016/08/23/1748/


この他にも、学生証を通称名に変えてもデータベースが変更されておらず、学期が変わる毎、授業が変わる毎に教授に通称名の説明をしなければならなかったといった事例もあります。

トランスジェンダーやXジェンダーの学生にとって、何度も自分のセクシュアリティを説明しなければならないのは精神的負担も大きく、また、アウティングの問題にもつながってしまう危険性があります。

名簿や学生証の名前を通称名に変更するだけでは充分ではなく、性別欄もセクシュアルティに準じて変更する、もしくは性別欄自体をなくす、といった対応も必要です。

また、上記のように担当教授が無意識にアウティングにつながるような発言をしてしまわないよう、大学側がLGBTに関する勉強会を開くといったことも必要です。

トランスジェンダーのドキュメンタリー映画「ハイヒール革命!」

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MTFのトランスジェンダーある女優、真境名薫のドキュメンタリー映画「ハイヒール革命」が9月17日に公開されました。

ハイヒール革命は、男性として生まれた真境名ナツキ(本名:真境名薫)が、性の壁を越え女性に生まれ変わり、いかにコンプレックスを豊かな個性に変えていったのか-インタビューパートに少年時代の再現ドラマパートを交えながら描いています

黒いランドセルにモヤッとした違和感

真境名ナツキが性に違和感を感じたのは小学校に入学する時。真黒なランドセルをプレゼントされた時、愕然としたといいます。
説明のできないもやもやした違和感を感じました。

女子の制服を着たくても先生にも理解されない中学時代から一転、高校時代は女子バレー部のキャプテンとして活躍します。

家族のやさしさに支えられ、なりたい自分へ近づくため、女性として生まれかわっていきます。

取材に基づいた再現パート

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取材に基づいて描いた再現ドラマパートも見どころのひとつ。

大河ドラマ「龍馬伝」で子役として注目された濱田龍臣が、ナツキの少年時代を熱演。
今回の役を演じるにあたり、「LGBTについて調べたり、真境名さんに話を聞いた」といいます。インタビューでは下記のように語っています。

―この作品を通して「性」に対する考え方は変わりましたか?

そうですね。劇中に「周りが理解してくれれば障害じゃなくなる」っていうせりふが出てくるんですけど、まさにそのとおりで、周りの人の受け止め方次第なんだなって思いました。

―ナツキさんの場合は、お母さんが最大の理解者となってくれたことが大きいですよね。

そうですね。身近に支えてくれる人がいるっていいなって。力になるんだなって思いました。僕ももし、身近にLGBTの方がいたら、その人の話や意見をちゃんと聞いて自分なりに受け止めてあげたいし、何か力になってあげられたらと思いましたね。

濱田龍臣インタビュー 映画「ハイヒール革命!」で初めての“女の子”役に挑戦
http://www.tvlife.jp/2016/09/09/71579

ハイヒール革命は公開中!

ハイヒール革命は、9月17日から公開しています。
劇場情報は下記サイトより確認できます。

http://highheels.espace-sarou.com/info/

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※記事中の写真は、映画「ハイヒール革命」公式サイトより参照
http://highheels.espace-sarou.com/

トランスジェンダーが性自認のトイレを使えないのは差別だ!アメリカでのトイレ問題のその後

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トランスジェンダーは性自認のトイレを使えるかどうかを巡るアメリカの問題のその後です。

NCAA(アメリカ大学体育協会)主催の7つのイベントが、ノースカロライナ州で開催されなくなりました。

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NCAAとは、大学のスポーツクラブのリーグ戦などを運営する協会で、扱う競技はアメリカンフットボール、バスケットボール、野球、テニス、陸上競技、など多彩です。

NCCの決定は、ノースカロライナ州が「LGBT学生が性自認のトイレを使ってはいけない」とする州法を可決したことに対する反対意見を示すためのものです。

NCAAが今年はノースカロライナ州での7つの大会を開催しないと発表した後、ACC(東海岸カンファレンス)のジョン・スウォードコミッショナーは「この州での多くのスポーツのイベントは誰のものだ?」とACCの会議で発言しました。

ACCの決勝戦は2010年にノースカロライナ州シャーロット市で開催されて以来、2016年、2017年のシーズンは最後にマーキー大学で開催されています。

ジョン・スウォードコミッショナーはそれが今のノースカロライナ州のイベントを開催についての意思決定を行うために「時期尚早」であろうが、法律に対する明確な声明を発表しました。

「個人的にジョン・スウォードはこの法律は基本的人権への侵害として廃止すべきだと思っています」と述べました。

HB2として知られる法律は、トランスジェンダーの人々が政府や学校でお手洗いを使用するために、出生証明を必要としていて、性自認や性的指向も被差別保護の対象から除外しています。

ノースカロライナで開催できる今年度唯一の決勝戦は、自身のキャンパスで開催できる権利を得た時に決定したものです。

NCAAは男子バスケットボールの1回戦と2回戦を別の場所で行うと宣言し、3月の17日と19日にグリーンズボロでやることが決定しました。
NCAAがほかに場所を変更したものとしては

・女子サッカーの一部リーグが12月2日と4日に州都ローリーのすぐそばのケーリーで
– 3部リーグの男子と女子サッカー選手権の大会が12月2日と4日にグリーンズボロで
– 1部リーグの女子ゴルフの地方大会が、5月8-10にグリーンビルで
– 3部リーグの男子と女子テニス選手権は、5月22日から27日でケーリーで
– 1部リーグの女子ラクロス選手権は5月26日と28日にケーリーで
– 2部リーグ野球選手権5月の27日から6月3日にケーリーで

実はノースカロライナ州は男子のトーナメントを251回開催しており、すべての州において一番多いです。

NCAAのマーク・エマート会長は月曜日の夜に声明を出しました。

「運営機関は開催地に関する発表を来年初めまで延期するだろう。
NCAAの反差別基準に照らして、将来の開催地にへの必要な質問票を準備しています。

またすでにみなさんご存じだと思いますが、ブルース・スプリングスティーン、パール・ジャムとリンゴ・スターなどの芸能人は、ノースカロライナ州でコンサートする計画をキャンセルしました。

そして、PayPalはシャーロットで400人の従業員のオペレーションセンターを開設する計画を白紙にしました」

差別がある地域では、スポーツイベントは開催しない、というNCAAの姿勢は毅然としていてわかりやすいですね。しかし一方で関係ない方も巻き込まれる形になっていて、それはそれで残念な気持ちもあります・・・。

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こあせんせー
早稲田大学法学部卒のストレートアライ。
時事ネタ、法律関係が得意。趣味は将棋とモノポリー。

トランスジェンダーの認知、理解を広めたい。LGBT当事者orLGBTアライによるレポート

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LGBT当事者もしくはアライによる「セクシュアリティ」に関するレポートを紹介するシリーズ。
今回はトランスジェンダーについて多くの人に認知、理解してほしいと考える方のレポートです。

トランスジェンダーを認知・理解を広めたい

私はLGBT(主にトランスジェンダー)について多くの人に認知・理解してほしいと考え、自分の治療に関してブログを通じて発信しています。また、SNSでは当事者同士の情報提供や呼びかけも行っています。

トランスジェンダーであれば治療について気になることは多く、今後自分が治療を始めるときのために役立つ情報がほしいと思います。
私自身、治療を行う前はたくさん検索をし、治療・手術などについて把握しようと心がけていました。その情報を活かし、現在は治療のリスクを訴えかけたり、治療の流れや詳細について発信し、当事者の理解に役立つよう奮闘しています。

また、LGBTを理解する人が増えれば、偏見や差別が減っていくと考え、LGBT非当事者にLGBTを知ってもらうきっかけになればと、SNSで自分の治療やLGBTに関することを発信しています。

私がなぜこのような活動をしているのかは、自分の実体験にあります。

学校生活には嫌だと思うことがたくさんあった

私は幼少期から自分の性に違和感を持ち、苦しいことや悔しいことがたくさんありました。
例えばランドセルの色や制服のスカート、トイレの利用、性によって「さん」か「君」を区別すること。
挙げればきりがありません。学校生活には嫌だと思うことがたくさんありました。

しかし、誰にも言えずに我慢することの連続でした。家族や担任の先生、友達にも言えずないことが、時には孤独感や疎外感を生みました。

セクシュアルマイノリティに理解ある社会になってほしい

このような問題が起きるのは、カミングアウトを容易にできない現在の社会環境にあるのではないかと考えています。LGBTに関して知っている人がどれほどいるのでしょうか。
また、理解をし、支援・援助をしてくれる機関はどれほどあるのでしょうか。
現在の日本の社会では非常に少なく、セクシュアルマイノリティの人たちは、なかなか正直に生きていけないと感じています。

私も就職活動を行う中で、性別の記載や服装に悩まされることが多々あります。
偏見や差別は非常に恐ろしいものです。
時には人の命をも奪ってしまいます。
日本がセクシュアルマイノリティを個性として受け入れる社会になることで、どれだけの人が救われるでしょう。そんな社会になれば、私のように苦しい体験をする子供もいなくなるはずです。

私はセクシュアルマイノリティに理解ある社会になることに、少しでも貢献したいと考え、日々ブログやSNSを通して発信しています。
自分の個性を隠し、悩みを抱えこむのではなく、挑んで前へ進んでいくことを人生の目標としています。

トランスジェンダー役を男性が演じることに批判意見が続出?

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トランスジェンダー役は
トランスジェンダーでなければ演じられない?

映画『Anything』 (原題/エグゼクティブプロデューサーはマーク・ラファロ)、に登場するMTFのトランスジェンダー役に、男性であるマット・ボマーが起用されたことに批判が集まっています。

この映画のストーリーは、妻を亡くした自殺願望をもつ男性が、ミシシッピからロサンゼルスに引っ越し、そこでマット・ボマーが演じるトランスジェンダー(MTF)の売春婦と友人になるというものです。

エグゼクティブプロデューサーのマーク・ラファロは、企画が発表された際「この企画に参加できてすごくうれしいと思っています」「愛は偉大な物語の本質であり、すべての差別や政治を超越する」と話しました。

しかしマーク・ラファロがインタビューで映画の配役についてコメントした途端、実際のトランスジェンダーを起用しなかったことを批判するツイートが彼のもとに集中したと Washington Post などが報じています。

批判の内容は、「トランスジェンダーはトランスジェンダーの人が演じるべき」や、「トランスジェンダー気持ちはトランスジェンダーの方にしかわからない」等。

自分自身もMTFのトランスジェンダーであり、女優もであるジェン・リチャーズも、男性であるマット・ボマーがFTMのトランスジェンダー役に配役されたことに反対意見を述べています。

※トップの写真はhttp://www.imdb.com/name/nm0093589/より

マット・ボマーってどんな人?

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マット・ボマーTwitterよりhttps://twitter.com/MattBomer

トランスジェンダー役に演じることに批判をされているマット・ボマーとはどんな人物なのでしょうか。

マット・ボマーは、アメリカのテレビドラマ『トゥルー・コーリング』のルーク役、『ホワイトカラー』のニール・キャフリー役で知られる俳優です。

彼はトランスジェンダーではありませんが、LGBT当事者ではあります。
男性のパートナーと同性婚をしており、2012年にはゲイであることをカミングアウトしています。

リリーのすべてにも批判はあった

『リリーのすべて』でMTFのトランスジェンダー役を演じたエディ・レッドメインや、『ダラス・バイヤーズクラブ』でトランスジェンダー役を演じたジャレッド・レトーに対しても同じような批判は持ち上がっていました。

その役と同じ人種、性別などでなければ配役は不適切だという意見があるのです。

 

映画『Anything』の制作サイドはマット・ボマーがトランスジェンダー役を演じることへの批判に対し、すでに撮影が終了していることから配役を変えることはできないとし、「マットはこの役に魂を注ぎ込みました。どうか理解してくれませんか。私たちはまだ学んでいる段階なのです」と、コメントしています。

 

トランスジェンダー役は、
トランスジェンダーの人でないと演じられないという意見、こあせんせーにはわかりませんね!

ではトランスジェンダー役以外でも、同じ境遇、同じ体験をしたことがあるような人でなければ演じてはいけないということなのでしょうか??

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こあせんせー
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LGBTは性自認のトイレを使ってもよい?

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トランスジェンダーなどのLGBT学生は、体の性、心の性、どちらのトイレを使用するべきか?

アメリカでは今、これについての論争が起こっています。
(アメリカで物議を醸す「トイレ法案」とは?https://nijipi.lgbt/life/844

LGBTは性自認のトイレを
使ってもよいか

アメリカでのトイレを巡る論争、これまでの流れは以下の通りです。

2016年2月
ノースカロライナ州のシャーロット市が、「LGBT学生が性自認のトイレを使ってよい」とする条例を可決

2016年3月
ノースカロライナ州が、シャーロット市の条例を「無効」とするための州法を可決

2016年5月
オバマ政権がノースカロライナ州の州法は「違憲である」として同州を提訴
連邦の性差別に関連する法律を市民権の問題として引用し、学校はトランスジェンダーの学生が自身の性自認と一致するトイレの使用や、学校設備の使用を許可しなければならないとしました。
この決定は「タイトル9」と呼ばれています。

こうして、トランスジェンダーなどのLGBT当事者が性自認のトイレを使ってもよいかどうかについての論争が繰り広げられてきました。

テキサス州はオバマ政権に反対

オバマ政権の「タイトル9」に反対するのは現在13州。そのうちのひとつであるテキサス州は、「タイトル9」を不服とする訴えを起こし、8月21日に「タイトル9」の法的効力を強制的に停止しました。

つまり、テキサス州はトランスジェンダーなどのLGBT当事者が性自認のトイレを使ってはいけないとしているのです。

LGBTのトイレ使用にまつわる論点

LGBT当事者のトイレ問題では、以下のような論点で争われています。

・LGBT当事者が性自認のトイレを使えないとするのは、差別ではないか

・どちらのトイレを使うか自由に選べるようになることが、犯罪につながるのではないか
(=性的嗜好の目的で使用する人が現れるのでは?など)

・オバマ政権の「タイトル9」は正当な手続きを踏まえた決定ではない。権限を越えての規制ではないか

テキサス州の決定には賛否両論

テキサス州の決定に対しは様々な意見が出ています。

賛成派

ACLU(アメリカ市民自由連盟)
この不幸で時期尚早な判決は単にトランスジェンダーの学生を混乱をさせるだけでなく、トランスジェンダーを支援している学校や学区を混乱させうるものです。

トランスジェンダー平等の為の公立センター ハーパージャン政策担当官
「生徒、親、そして関連コミュニティはまだ権利を訴え続けることができます。そして私達は差別を続ける学校を訴えることを期待しています。そして私達はほとんどの学校が差別のない、正しい選択をすると期待しています」

反対派

アラバマ州司法長官のルーサーストレンジ
アラバマ州のトイレ政策を「ワシントンの社会実験」から阻止するために訴訟に参加していたと述べました。ストレンジは判決を「すべてのアラバマ州の親と子供のための勝利」と呼びました。

ジェームズ・ランクフォード上院議員
テキサスの判決は有効だとする見解を述べた。「私達が繰り返し述べているように、オバマ政権によるトイレと更衣室に関する指示は、大統領が移民や、環境規制などほかの問題に取り組んでいる時と同じように、新しい規制を作る際の正当な手続きを踏んでいない」「どこの学校もいじめや差別があってほしいとは思っていないが、教育省は国家教育委員会として、すべての学区に対して解決策を課す権限はもっていないと考えています」

 

アメリカのトイレ問題の続報です。
アメリカは「州」の権限が大きいです。そのためテキサス州の決定は、アメリカ全土に大きな影響を及ぼしています。
LGBTのトイレ使用を巡る議論の論点には、問題の本質とは異なることも含まれており、議論が長引いています。
よりよい方向へと動いていくことを期待しています!

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FTMの働き方。自衛隊での体験。

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LGBT当事者もしくはアライによる「セクシュアリティ」に関するレポートを紹介するシリーズ。
今回はFTM当事者であり、陸上自衛隊に入隊した方のレポートです。

自分らしく仕事ができると期待したが…

私はFTM当事者です。高校を卒業し私が選んだ道は、男性主体で尚かつ公務員である陸上自衛隊に入るという選択でした。
入隊試験を経て、無事合格。入隊式を終え、自衛隊こそ自分らしく仕事に専念できる環境であると信じて期待していました。

しかし、いざ自衛隊員としての生活が始まってみると、想像とはまるで違いました。
完全なる男女別での行動。女性自衛官として特化した教育。
同じ自衛官であるにもかかわらず通称(女性陸自隊員をワックという)まで違い、この職場環境に私は愕然としてしまいました。

公務員という職業は、国という大きな組織の下にあり、決して我々性的少数者(セクシュアルマイノリティ)が生きやすい職場ではないということに、私はそこでやっと気が付いたのでした。

上司に相談しても、「前例が無いから」「正直よくわからないから」「そういう面倒なことは隠しておいた方が良い」などと全く相手にはされず、寧ろ煙たがられているのがハッキリっと感じられました。
しかし自分が選んだ職業をそう簡単に投げ出すわけにもいかず、悶々とした日々を送っていました。

お前はお前らしく堂々と胸張って仕事すればいい

そんなとき、一人の先輩が「お前はお前らしく堂々と胸張って仕事すれば良い」と声をかけてくれました。
そこで私は、前例が無いのなら自分が初めての例になって微力ながらもこの組織に何らかの風穴を開けてやろうと決意したのでした。

私が思うに、日本人ならではの特徴がLGBTを受け入れる体制作りを阻んでいるのだと思います。
郷に入れば郷に従え。
人権の尊重といいながらも、「出る杭は打たれる」という全くもって個性を殺してしまう固定観念の色眼鏡。男性は雄々しく女性は淑やかに。女らしさ男らしさという考え方。このように数えればキリがないほどの固定観念で固められた人々の頭は非常に固く、日々自分の性認識について説明し続ける日々でありました。

しかしながら個人が説明をするのではなく、組織として現状を受け入れ、人権などの教育にLGBTのことに関しても含めるべきだと強く感じました。
そして集団生活の中にも、こうした性的少数者(セクシュアルマイノリティ)への配慮として、多目的トイレの設置や個別のシャワー室の利用ができるようにする等、できることは山ほどあるように思います。

その中でも最も重要であると思うのは、1人1人の理解の広がり、偏見の払拭だと思うのです。
国の傘下にある公務員こそ、積極的にこの問題に取り組むべきであり、国全体として理解ある社会づくりの代表的な組織であってほしいと思うのです。

この国の全ての企業や組織におけるLGBTへの理解と知識を深める機会を増やすことが非常に重要であり、この国が一歩前進できる素晴らしいきっかけとなってくれることを切に願います。

編集部より

今回は自衛隊で働くことを経験したFTM当事者の方のレポートでした。
まだまだLGBT当事者にとって、働きやすさが整っていない環境があるのも事実…。しかし、この方のように理解ある先輩と巡り合い、自分らしい働き方を目指している方の言葉は、LGBT当事者にとっては勇気になるのではないでしょうか。