エジプトの大ムフティー(スンナ派のイスラム教国におけるイスラーム法に関わる官吏の最高位者に対する称号)アッラーム氏が、『同性愛者に傷害を加えることはたとえイスラム教の教えで同性愛が禁じられているとしても、受け入れられることではない』との見解を表明しました。
エジプトの大ムフティは宗教上の地位も大変高く、宗教法についての意見を決定する際に重要な役割を果たしています。
2013年に大ムフティーとなったアッラーム氏は、その穏健な思考で知られています。今回の同氏の同性愛についてのコメントは、エジプトの他の宗教権威者とはまったく対照的なものです。
アッラーム氏のインタビューは、エジプトで同性愛社会に対する取締まりの最中に行わました。この取締りを受けて国内の同性愛者らは、逮捕されたり襲撃に遭ったりするのを恐れて身分を隠すなどして対処しています。
LGBT活動家らは、増加傾向にある同性愛やトランスジェンダーだと思われる人々をねらった不当逮捕に対する懸念を訴えています。このような無差別逮捕のなかには、友人の誕生日を祝っていた7人のトランスジェンダーの人々(2015年2月)や、売春を疑われた11人の同性愛者(同年9月)などが含まれています。またエジプトでは同性間の性行為を淫行の罪として収監しているという事実もあり、国際社会からも懸念される事態になっています。
インタビューで大ムフティーは、49人が犠牲になった米国フロリダ州オーランドの襲撃事件を非難。
誰一人として『同性愛者を傷つけたり、(イスラム教の教えを)自ら行動に移したりする』権利はもっていないと強調しました。また、同性愛を禁じる一方で同性愛者であっても平等に扱われるべきだと主張していると指摘しました。
エジプトには、同性愛を禁じる明文規定はありません。しかし、2012年にエジプトの外交官が同性愛者は実在しない人間であるというような発言をしたり、2013年のピュー研究所の研究では、調査対象となったエジプトの人々の95%は、同性愛は排除されるべきだと信じていることが明らかになっています。
また「個人的権利のためのエジプト戦略(Egyptian Initiative for Personal Rights)」によると、過去数年において、警察はエジプトのLGBT社会でよく使われているウェブサイトやSNSを監視していると言います。
監視対象にはゲイの男性向けのデートアプリである「グラインダー」も含まれており、警察は偽のアカウントを作成して個人を摘発するのに利用しているといいます。
ある同性愛者の男性は匿名で「自分の態度や言動につねに注意していなければならない。服装も、他人に対する反応も」と話し、「私はいつでも、会う人が誰しも政府のスパイでいつか逮捕されるのではないかと心配している」と不安げな声をもらしました。
アフリカは場所によっては同性愛者は死刑される国もあるなど、大変LGBTに関する権利が制限されている地域です。またイスラム教を信仰している人・地域も多く、その教えに則って、同性愛が禁止されている地域がたくさんあります。そのなかにあって、エジプトという比較的政治的・宗教的影響力のある国の宗教指導者が、今回のようなコメント出したことは大変意義深いことだと思います。これをきっかけに少しずつ良い方向に動きだすといいですね。
こあせんせー
この記事を書いた人
こあせんせー
早稲田大学法学部卒のストレートアライ。
時事ネタ、法律関係が得意。趣味は将棋とモノポリー。