一橋大学で起こったアウティング事案

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「LGBT」であることを友人たちに知らされ自殺した一橋大学法科大学院生Aさんの両親が、相談を受けていた大学などに賠償を求める訴えを起こしました。

概要

2015年4月 AさんがZさんに告白
一橋大学法科大学院の3年生だった男性Aさんは2015年4月男性の同級生Zさんに恋愛感情として好意があることを打ち明けました。
Aさんは同級生たちが「同性愛者を生理的に受け付けない」と話しているのを耳にしていたことから、それまでカミングアウトはしておらず、Zさんに思いを伝える際に自分が同性愛者であることも同時に告白していました。

Aさんの告白を受け、Zさんは「Aさんの気持ちに応えることはできないけれどもこれからも友達でいよう」と伝えました。

2015年6月24日 ZさんがAさんがゲイであることをLINEグループに書き込む
ZさんはAさんを含む同級生10名が参加するLINEグループに「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と書き込みました。

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これを機にAさんは同級生に自分のセクシュアリティを知られてしまう、いわゆる「アウティング」されてしまいます。

Zさんはこれについて、「恋愛感情をうち明けられて困惑した側として、アウティングするしか逃れる方法はなく、正当な行為だった」と主張しています。

2015年7月21日 不安神経症と診断される
思わぬ形で秘密をばらされてしまったAさんは大変なショックを受け、Zさんと顔を合わせると吐き気や動悸などのパニック発作がでるようになりました。
そして2015年7月21日には心療内科に通院するようになり、医師から不安神経症と診断され、安定剤などの処方を受けました。

2015年7月27日 一橋大学ハラスメント相談室に相談
一橋大学ではハラスメント対策としてガイドラインが定められており、相談窓口も設けられています。
Aさんはこの相談窓口に7月27日、8月3日、8月10日の3回訪れ担当者と面談しました。

しかし、相談窓口では「性同一性障害」を専門とするクリニックへの受診を勧められたといいます。

性同一性障害とは、体の性と心の性(性自認)が一致せず、性自認に近づけるために性の適合を望むといった医学的な疾患名です。Aさんは性的指向が同じ男性であるゲイなので、性同一性障害とはまったく別です。

また、大学院の教授に相談するも「悩みがあるような君こそ弁護士になってほしい」といったAさんの悩みの本質とは異なるアドバイスをされました。

2016年8月24日 転落死
8月24日必修の「模擬裁判」の授業が行われていました。

Aさんはこの授業に出席するために大学には来たものの、パニック障害の発作が起こり、大学の担当者によって保健センターに連れて行かれました。
このとき保健センターの職員及び相談窓口の担当者は、Aさんが心療内科で処方された脱抑制効果のある薬を直前に服用していることを把握します。
脱抑制効果のある薬を服用している際にパニック発作が起きると、本人でも制御不能な行動に出る恐れがあります。しかしAさんが「模擬裁判」の授業にどうしても出席したいとうったえたため、授業に向かわせました。

その約1時間後、Aさんは校舎6階のベランダ部分に手をかけぶら下がっているところを発見されます。救助が呼ばれますが、到着前に転落し、死亡してしまいました。

遺族の訴え

Aさんの死亡後、遺族は同級生と大学を提訴し、合わせて300万円の損害賠償を求めています。
原告側は大学の責任について、次のように主張しています。

今回のような「アウティング」が起きたのは、同性愛についての説明や、セクハラを防ぐ取り組みを大学が怠ったせい。さらに、Zくんと顔を合わせれば、Aくんがパニック発作を起こす可能性があると認識していたのに、それを防ぐための取り組みをせず、転落事故を招いた。

一橋大学側は裁判で、「大学の対応に問題はなかった。個別の事故は防げない」と主張しています。

また、遺族は生前AさんはZさんを訴えたいと話していたといい、本人の無念を晴らすために提訴したと話しています。

裁判のポイント

この事件では下記のようなことがポイントとなります。

・LGBTへの知識、理解がなかったZさんがアウティングをしてしまった。
・Zさん側は「恋愛感情をうち明けられて困惑した側として、アウティングするしか逃れる方法はなく、正当な行為だった」と裁判で主張している。
・Aさんはアウティングによってパニック障害などを発症し、大学側に相談するが、大学側もLGBT、パニック障害などの知識、理解がなく、適切な対応を行わなかった。
・遺族は「クラス替えや留年を相談するも真剣に対応してもらえず、大学側からの説明も不十分である」と主張している。

セクシュアリティの問題は非常にセンシティブかつプライバシーな問題です。
望まない形で知らせされることを「アウティング」と言いますが、LGBT当事者にとっては精神的ショックが非常に大きいです。今回の事件では大学側、同級生側がLGBTに理解がないことでAさんを傷つけ自殺に追い込んでしまう結果になってしまいました。このような悲劇が繰り返されないよう、世の中のLGBTへの理解がより進んでほしいと思います。

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この記事を書いた人

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こあせんせー
早稲田大学法学部卒のストレートアライ。
時事ネタ、法律関係が得意。趣味は将棋とモノポリー。