成宮寛貴さんの芸能界引退に対するLGBT当事者の観点

LGBT当事者もしくはアライによるレポート。今回は成宮寛貴さんの芸能界引退についてです。

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コカイン使用疑惑の記事が週刊誌に載せられ、また同性愛者であるとの噂をされていた俳優、成宮寛貴さんが今月の9日、芸能界引退を発表しました。

今回の報道では、彼がどのような生い立ちで現在俳優業をしているかがクローズアップされていました。その一部分として、ゲイバーで働いていたという過去や今回の写真をリークした男性との関係が書かれていました。

成宮さんは自分はLGBTであるという旨の発言は一切していません。しかし、多くのメディアでは彼がLGBTであるような報道をしています。

この一連の報道に、LGBT当事者の多くが注目したのではないでしょうか。
その理由のひとつに、成宮さんがLGBTであるかどうかではなく、彼が引退時に発表したコメントの中の「人には絶対知られたくないセクシャリティな部分もクローズアップされる」という一文にあるのではないでしょうか。

本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性自認等の秘密を暴露する行動のことをアウティングと言いますが、LGBT当事者の多くがこの問題に敏感です。

成宮さんがLGBTであるかどうかはわからないので、今回の報道がアウティングにあたるかどうかはわかりません。

しかし、もし自分が同じようなことをされたら…そう考えると恐怖や憤り、不安などを感じている人も多いのではないでしょうか。

そういった点で、今回の報道は、LGBT当事者にも注目されたのではないかと思います。

トランスジェンダーは大学で「通称名」を使えるのか?

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トランスジェンダーやXジェンダーの人たちが日常生活で要請していることのひとつに、「身体の性別に基づいて付けられた名前ではなく、自分のセクシュアリティに準ずる名前(通称名)を使って生活がしたい」というものがあります。

さて、就活を控えた学生にとって、身分証明書と言えば学生証です。学生証にも通称名を使いたい、という需要はもちろんあると思います。
大学では通称名の使用についてどのように対応しているのでしょうか。

通称名を使える大学も多い

文部科学省は、「(トランスジェンダーの通称名使用に関して)通知は出しておらず各大学での対応」としており、現状では各大学がそれぞれ対応しています。

今年1月には、北九州市立大が性同一性障害(GID)の学生の要望を受け、「心の性」に沿った通称名使用を認める制度を始めました。

この他にも早稲田大学など、通称名が使える大学は増えてきており、明確に制度がなかったとしても、相談をすれば対応してくれる大学も多いようです。

改名をするときにも通称名は重要

現在は通称名だけれど、いずれ戸籍も変更したいと考えているトランスジェンダーにとって通称名を使うことは重要です。

なぜなら、改名の手続きを行うためには通称名を日常的に使用していることが必要だからです。

手紙の宛先や職場での名札などがその一例ですが、大学での通称名の使用はそれに代わる大きな証拠になることができます。

学生証などに明記されていれば、準公的な身分証として通用していることになります。

通称名に変更するだけでは解決されない問題も

名簿や学生証を通称名に変更するだけでは解決されない問題も残っています。

名簿の名前は通称名だけれど、性別欄が身体の性別のままになっている場合などです。
下記のような事例もあります。

T: ある授業では、先生がコミュニケーションの一環として名簿でF(女性)と書いてある人に「彼氏はいるの?」というような質問で場を和ませることがありました。
そのクラスで僕は男子生徒として過ごしていたのですが、名簿にはF(女性)と書いてあるので、先生からは「彼氏いるの?」と聞かれました。

参照:早稲田大学 一人ひとりが輝くキャンパスへ WASEDA LGBT ALLY WEEK開催にあたって
https://www.waseda.jp/inst/diversity/news/2016/08/23/1748/


この他にも、学生証を通称名に変えてもデータベースが変更されておらず、学期が変わる毎、授業が変わる毎に教授に通称名の説明をしなければならなかったといった事例もあります。

トランスジェンダーやXジェンダーの学生にとって、何度も自分のセクシュアリティを説明しなければならないのは精神的負担も大きく、また、アウティングの問題にもつながってしまう危険性があります。

名簿や学生証の名前を通称名に変更するだけでは充分ではなく、性別欄もセクシュアルティに準じて変更する、もしくは性別欄自体をなくす、といった対応も必要です。

また、上記のように担当教授が無意識にアウティングにつながるような発言をしてしまわないよう、大学側がLGBTに関する勉強会を開くといったことも必要です。

ゲイ出会い系アプリでリオ五輪選手のプライバシー侵害

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アメリカのWEBニュースサイト「THE DAILY BEAST」が、リオオリンピック出場選手のプライバシーを侵害しアウティングに近い記事を公開したとして問題になりました。

問題となった記事は、「『オリンピックの選手村が出会いの温床である』という実態を探るために、記者がゲイの出会い系アプリを実際に使って調査をした」という内容です。

記事には、grinderという人気アプリを使って「登録して1時間で3件のデートの約束が取れた」と書かれていました。
さらに、grinderで出会ったリオオリンピックに出場する男性選手たちの、国籍や身体の特徴などが詳細に書かれていました。誰であるかが特定されかねないような内容であったため、プライバシーの侵害でありアウティングになりかねない記事だとして大きな問題になりました。

THE DAILY BEAST誌は、該当記事を削除した上で、謝罪しました。
編集長のアバロン氏は以下のように謝罪しています。
「記者にアウティングの意図はなかった。しかし国によってはゲイであることが安全性を脅かされる懸念さえある。我々は彼らの安全性を脅かす可能性が少しでもあったことについて謝罪する」

また、プロフェッショナルジャーナリスト協会は今回の記事について以下のように批判しています。
「この記事によって悪影響を受けたアスリートに対しても謝罪するべき。このような記事を書くメディアは、現代メディア組織においてその居場所はない」

こあせんせーもスポーツは大好きなので、日々オリンピックを見ておりますが非常に残念なニュースですね。
この件に関しては①スポーツメディアの在り方の問題(選手のことを何でも記事にして良いのか?)と、②記者のLGBT当事者がおかれている状況への認識のなさの問題があると思います。
特に②については、現在でも同性愛が違法とされる国は70国程あり、同性愛者だと知られることは命の危険性さえあります。このような事実がまだまだ知られていないのだなぁと実感するところであります。
つい先日もアメリカのゲイクラブで49人が射殺されたばかりだというのに…。

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この記事を書いた人

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こあせんせー
早稲田大学法学部卒のストレートアライ。
時事ネタ、法律関係が得意。趣味は将棋とモノポリー。

一橋大学で起こったアウティング事案

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「LGBT」であることを友人たちに知らされ自殺した一橋大学法科大学院生Aさんの両親が、相談を受けていた大学などに賠償を求める訴えを起こしました。

概要

2015年4月 AさんがZさんに告白
一橋大学法科大学院の3年生だった男性Aさんは2015年4月男性の同級生Zさんに恋愛感情として好意があることを打ち明けました。
Aさんは同級生たちが「同性愛者を生理的に受け付けない」と話しているのを耳にしていたことから、それまでカミングアウトはしておらず、Zさんに思いを伝える際に自分が同性愛者であることも同時に告白していました。

Aさんの告白を受け、Zさんは「Aさんの気持ちに応えることはできないけれどもこれからも友達でいよう」と伝えました。

2015年6月24日 ZさんがAさんがゲイであることをLINEグループに書き込む
ZさんはAさんを含む同級生10名が参加するLINEグループに「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と書き込みました。

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これを機にAさんは同級生に自分のセクシュアリティを知られてしまう、いわゆる「アウティング」されてしまいます。

Zさんはこれについて、「恋愛感情をうち明けられて困惑した側として、アウティングするしか逃れる方法はなく、正当な行為だった」と主張しています。

2015年7月21日 不安神経症と診断される
思わぬ形で秘密をばらされてしまったAさんは大変なショックを受け、Zさんと顔を合わせると吐き気や動悸などのパニック発作がでるようになりました。
そして2015年7月21日には心療内科に通院するようになり、医師から不安神経症と診断され、安定剤などの処方を受けました。

2015年7月27日 一橋大学ハラスメント相談室に相談
一橋大学ではハラスメント対策としてガイドラインが定められており、相談窓口も設けられています。
Aさんはこの相談窓口に7月27日、8月3日、8月10日の3回訪れ担当者と面談しました。

しかし、相談窓口では「性同一性障害」を専門とするクリニックへの受診を勧められたといいます。

性同一性障害とは、体の性と心の性(性自認)が一致せず、性自認に近づけるために性の適合を望むといった医学的な疾患名です。Aさんは性的指向が同じ男性であるゲイなので、性同一性障害とはまったく別です。

また、大学院の教授に相談するも「悩みがあるような君こそ弁護士になってほしい」といったAさんの悩みの本質とは異なるアドバイスをされました。

2016年8月24日 転落死
8月24日必修の「模擬裁判」の授業が行われていました。

Aさんはこの授業に出席するために大学には来たものの、パニック障害の発作が起こり、大学の担当者によって保健センターに連れて行かれました。
このとき保健センターの職員及び相談窓口の担当者は、Aさんが心療内科で処方された脱抑制効果のある薬を直前に服用していることを把握します。
脱抑制効果のある薬を服用している際にパニック発作が起きると、本人でも制御不能な行動に出る恐れがあります。しかしAさんが「模擬裁判」の授業にどうしても出席したいとうったえたため、授業に向かわせました。

その約1時間後、Aさんは校舎6階のベランダ部分に手をかけぶら下がっているところを発見されます。救助が呼ばれますが、到着前に転落し、死亡してしまいました。

遺族の訴え

Aさんの死亡後、遺族は同級生と大学を提訴し、合わせて300万円の損害賠償を求めています。
原告側は大学の責任について、次のように主張しています。

今回のような「アウティング」が起きたのは、同性愛についての説明や、セクハラを防ぐ取り組みを大学が怠ったせい。さらに、Zくんと顔を合わせれば、Aくんがパニック発作を起こす可能性があると認識していたのに、それを防ぐための取り組みをせず、転落事故を招いた。

一橋大学側は裁判で、「大学の対応に問題はなかった。個別の事故は防げない」と主張しています。

また、遺族は生前AさんはZさんを訴えたいと話していたといい、本人の無念を晴らすために提訴したと話しています。

裁判のポイント

この事件では下記のようなことがポイントとなります。

・LGBTへの知識、理解がなかったZさんがアウティングをしてしまった。
・Zさん側は「恋愛感情をうち明けられて困惑した側として、アウティングするしか逃れる方法はなく、正当な行為だった」と裁判で主張している。
・Aさんはアウティングによってパニック障害などを発症し、大学側に相談するが、大学側もLGBT、パニック障害などの知識、理解がなく、適切な対応を行わなかった。
・遺族は「クラス替えや留年を相談するも真剣に対応してもらえず、大学側からの説明も不十分である」と主張している。

セクシュアリティの問題は非常にセンシティブかつプライバシーな問題です。
望まない形で知らせされることを「アウティング」と言いますが、LGBT当事者にとっては精神的ショックが非常に大きいです。今回の事件では大学側、同級生側がLGBTに理解がないことでAさんを傷つけ自殺に追い込んでしまう結果になってしまいました。このような悲劇が繰り返されないよう、世の中のLGBTへの理解がより進んでほしいと思います。

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こあせんせー
早稲田大学法学部卒のストレートアライ。
時事ネタ、法律関係が得意。趣味は将棋とモノポリー。