LGBTインタビューvol.11 杉山文野さん

約11万人が参加したTOKYO RAINBOW PRIDE 2017。今回は共同代表を務める杉山文野さんに、TOKYO RAINBOW PRIDEについて、そしてLGBTダイバーシティについて、お話を伺いました。

杉山文野さん
1981年8月10日 東京都新宿区生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科卒 フェンシング元女子日本代表。
ジェンダー論を学びその研究内容と性同一性障害と診断を受けた自身の体験を織り交ぜた著書『ダブルハッピネス』を講談社より出版。
現在は日本最大のLGBTプライドパレードである特定非営利活動法人 東京レインボープライド共同代表理事の他、各地での講演会やメディア出演など活動は多義にわたる。
日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ証明書発行に携わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。

TOKYO RAINBOW PRIDE 2017(以下TRP2017)は約11万人が参加と大盛況でした。
まずは終えられての感想をお願いできますか?

2016年の参加者数は約7万人で、今年は約11万人と4万人増えたというのは非常に大きなことでした。
2012年が約5,000人でしたから、5年間でこれだけ増えたということに社会の変化を感じました。
また、以前はLGBT当事者によるLGBT当事者のためのイベントという意味合いが強かったように思いますが、最近はアライの方など、本当に様々な方が来てくださるようになったことも嬉しいです。

TRP2017に参加された方からはどのような感想がありましたか?

LGBT当事者からは「楽しかった」「勇気をもらえた」「嬉しかった」という声が多いです。
地方から来られる方も多いので「一人じゃないと思えた」という方も多いですね。
まだまだ普段の生活の中で困ることがあったり、それぞれいろんな戦いがあるけれど、年に一度ここでみんなに会うと元気をもらえると言ってくださる方も多いです。

今年は企業・団体さんも様々な分野から数多く参加されていましたね。

今年は約190の様々な分野の企業・団体さんが参加し、協力してくださいました。
当日参加された大手の企業の方々からも「仕事ということ以上にイベントとして純粋に楽しかった」と言ってもらえたこともよかったです。

TRPは人権的な活動ではありますが、多様性を祝福する場でもあります。雰囲気はフェスのような感じですし、「こんな楽しいと思わなかった」という方も多くて、楽しんでくださったことが嬉しかったです。

何かしらの形で協力したいけど何をすればよいか迷うケースも多いのですが、こういう形であれば嬉しいといったことはありますか?

それぞれの企業の得意分野で協力してもらえればありがたいです。
例えばチェリオさんにはずっとメインスポンサーをして頂いていて、ボランティアスタッフの飲み物を提供して頂いています。

今年はドン・キホーテさんから事前にご相談頂き、「レインボーグッズが少ないから作ってほしい」と伝えたところ、レインボーのウィッグや帽子などいろいろと作ってくださいました。
TRP当日も好評で、たくさんの方がドンキさんのレインボーグッズを買って身につけていました。

▼TRP2017のブースで販売されたグッズ。

TRP2017の事前説明会や前夜祭・後夜祭、その他のウィークイベントなどの会場はヤフーさん、フリーさん、カフェカンパニーさんなどにご協力頂きました。以前は自分たちで会場探しから行っていたので、とても助かりました。

その他にもWASH&FOLDさんがボランティアスタッフのビブスの洗濯に協力してくださいました。
500枚くらいあるのでクリーニングに出すとそれだけでも数万円かかってしまうので、毎年私たち数名のスタッフがコインランドリーで洗濯していたんですよ(笑)。協力頂けて本当に助かりました。

こんな風に、協賛金ということだけでなく、それぞれの企業さんの得意分野で、無理なく協力してもらえればありがたいですし、協力頂くことで企業さんの方にも広告になるとか、社内のLGBTの理解が進むであるとか、そういったメリットを感じて頂ければ嬉しいです。

今後のTRPについて何か考えられていることはありますか?

今後は海外にも目を向けていきたいですね。
これまでアジアで最も参加者数が多かったのは台湾の8万人と言われていました。TRP2017は約11万人だったので、アジア最大級のイベントになることができました。

今後はアジア諸国が協力してアジアンプライドのようなものをやりたいね、と話しています。
それから2019年はゲイプライド活動のきっかけとなったストーンウォールの反乱から50年です。日本からもニューヨークのプライドパレードにフロートを出したいと考えています。

以前に比べTRPに参加する企業も増え、LGBTフレンドリー企業も増えてきました。
企業はLGBTに関して、どのような取り組みができると思いますか?

企業が取り組めることとしては大きく分けると2つあるかと思います。

ひとつはLGBTのお客様に向けた取り組みです。
LGBT向けというわけではなく、全ての人をターゲットにするという視点で取り組むことで、これまでリーチできていなかった層にリーチすることができます。

例えば丸井さんの取り組みがよい事例だと思うのですが、丸井さんは「すべてのお客様のために」をコンセプトにしています。
靴やスーツのサイズ展開を幅広くすることで、トランスジェンダーの方など数は少ないけれど確実にいる層のお客様にもサービスが提供できるようになり、売り上げが伸びたそうです。

▼一般的なパンプスのサイズ展開は22~25cm程だが、丸井グループでは19.5cm~27cmにすることでトランスジェンダーなど誰にとっても選びやすくしている。

もうひとつはLGBTの社員も含め誰もが働きやすい環境をつくる取り組みです。

「セクシュアリティは仕事に関係ない」という意見もありますよね。LGBTは大人のベッドの上だけの話と勘違いされることも多いのですが、そうではなくアイデンティティの話なのです。自分が何者であるかという大切なアイデンティティを隠しながら働くのはとても大変なことです。

例えば彼がいるんだけれど職場では「彼女」と言い換えて話をしたり、上司に女性がいる店に誘われて断ったら「付き合いが悪い」と言われたり…。ひとつひとつは小さなことですが、積み重ねるとストレスになり、それが原因で辞めてしまう人もいます。

働きやすい環境においても、「LGBTのため」というよりも「全ての人が働きやすい」という視点で考えるのがよいと思います。
最近はLGBTの正しい知識を身につけられるよう研修を開催したり、同性パートナーを配偶者として福利厚生を使えるようにして不平等感をなくしたり、LGBTに関する相談窓口を設けたりといった、取り組みをする企業が増えてきていますよね。

今、日本は2020年というのがひとつの目標になっています。こうしたわかりやすい目標があれば取り組みやすいと思いますし、これをきっかけに、LGBTダイバーシティにも取り組むとよいのではないかと思います。

2020年というお話がありましたが、Nijiリクルーティングでも2020年に向けて20万人のアライを増やす「アライ宣言2020」プロジェクトを行っています。
アライが増えることについてはどのようにお考えですか?

LGBT当事者としても、アライが増えていくことは嬉しいです。
TRP2017にも今まで以上にLGBT当事者ではない友達が来てくれることが増えました。
友達が子どもと一緒に来てくれて、「このおじさんも昔は女の子だったんだよ」と子どもに話すのですが、子供はぽかーんとしていましたね(笑)。

でもそういったことが大切だと思います。いいとか悪いとかではなく、いろんな人が一緒に生活しているということを子どもの頃から知ることで、大人になったときにも自然に多様性を受け入れられる人になるのではと思います。
今はLGBTについてアライと使っていますが、私は誰もが誰ものアライになれると思います。みんなそれぞれにある違いを認めることが大切なのではないでしょうか。

nijipiに訪問してくださる方の中には、就活生の方も多いのですが、メッセージをお願いできますか?

私も以前はカミングアウトして働ける企業なんてないと思っていましたし、そう思い込みすぎているところがありました。
ですが、実際にはLGBTフレンドリー企業はどんどん増えてきているので、ネガティブに考えすぎなくてもよいのではと思います。

それから、今の職場で何か嫌なことがあったら、どうすれば誰もが働きやすい環境になるのかを考え、会社に提案してみるというのもひとつの方法です。
できることから、できる人からでいいと思いますが、自分たちから働きかけて、働きやすい職場にしていくこともできます。

最後に今後取り組んでいきたいことについて伺えますか?

今後はLGBTのことだけでなく、いろんな人がいるということを伝えていきたいです。
LGBTに関する問題はどこに課題があるのかと考えたときに、マジョリティの課題なのではないかと私は思います。
私もセクシュアリティではマイノリティですが、別の部分ではマジョリティでもあります。誰にだって人には言えないコンプレックスがあり、マイノリティな部分がある。
そう考えると、マイノリティな部分を持っている人の方が多いのではないでしょうか。マイノリティの課題に向き合うということはマジョリティの課題に向き合うことですし、マイノリティが暮らしやすい社会はマジョリティにとっても暮らしやすい社会なのだと思います。
みんなにとって生きやすい社会をみんなで話し合ってつくっていきたいです。

ありがとうございました!

編集部より
TRPはこの数年でさらに大きな規模へと成長しています。そしてその中心にいるのが杉山文野さんです。
多くの人が様々な想いで関わるTRPをひとつにまとめあげるのは想像以上に難しく大変なはず。
杉山さんとお話していると、「LGBTを含む誰もが生きやすい社会にしたい」という真摯で熱い想いを感じならがらも親しみやすい温かさを感じます。
そんな杉山さんだからこそ、たくさんの人が惹かれ、想いをひとつにTRP成功に向けて動くことができているのではと思いました。

取材は杉山文野さんが経営されているタイレストラン「irodori」で行われました。
心地よい雰囲気とおいしいお料理が楽しめる素敵なお店です。

▼irodori
東京都渋谷区神宮前 2-14-17 1F
http://irodori-newcanvas.com/

LGBTインタビューvol.10 大島運輸株式会社

トランスジェンダーの当事者が社内で活躍中という大島運輸さん。性別適合手術に伴う休職にも柔軟に対応し、誰もが働きやすい職場環境にしようと取り組まれています。
インタビューでは大島運輸株式会社の代表取締役、大島 弥一さんにLGBTダイバーシティに関する考え方などのお話を伺いました。

御社ではLGBT当事者の方も活躍されているとのことですが、どのような経緯で採用されたのでしょうか?

2年程前にFTMの当事者から応募がありました。彼は警察官になろうと考えていたそうですが、スカートを履かなければいけない機会があるのが嫌で、運送業界の会社で働いていました。その後、ドライバーをしたいと思うようになり当社に応募してくれたそうです。

面接を担当した管理者から「身体は女性だけど心は男性で、男性として働きたいと言っている。意欲もあるし根性もありそうだから採用したい」と相談されました。

私はLGBTに偏見がないので、人的に問題なく、他の社員が受け入れ可能ならば是非、ということで採用することになりました。

偏見はないとのことですが、LGBTについての知識は以前からお持ちだったのでしょうか?

LGBTに関して詳しい知識はそれ程ありませんでした。
ただ、私は実家が新宿一丁目にあるので新宿二丁目とも近いため、小さい頃からLGBT当事者と触れ合う機会がありました。いろんな人が存在することが当たり前の環境だったので、偏見はありませんでした。

御社でFTMの当事者を採用するにあたって配慮したことはありますか?

通称名で働けるようにしたことと、トイレの使用については事前に確認しました。ただ、そもそも事業所のトイレは男女兼用なので問題ないとのことでした。
また、みんな自宅から作業着で出勤してくるので更衣室も必要ありませんし、その部分も問題ありませんでした。

配属先についても確認しました。建材の配送とコンビニのルート配送があるのですが、どちらかといえばコンビニの荷物の方が軽いんですね。ですからそっちにしようかと聞いたのですが、体を鍛えられるから建材の方がいいと言うのでそちらに配属しました。
最初は大変そうでしたがジムに通って鍛えたりしながら徐々に仕事に慣れていきました。今は本当に頼りになる存在です。

社内の方にもFTMであることはオープンにされているのでしょうか?

本人がオープンにしてもよいとのことでしたので、入社の際に「セクシュアリティなどに関係なく共に仕事をする仲間として迎え入れてほしい」と各部署に話をしました。
「LGBTってなんですか?」といった反応もありましたが、問題なく受け入れています。

実際に働いているところを見ても、FTMだから特別な配慮をしているというよりも、仕事仲間の一人として助け合っていますね。体格的に運びづらい荷物を誰かがフォローすることもあるようです。

性別適合手術でお休みを取られていたとお伺いしたのですが、どのくらいお休みされていたのでしょうか?

昨年末から2カ月程休職していました。とても頼りにしているので、復帰してくれるか不安でしたが、きちんと戻ってきてくれました。

休職前に「よく働いてくれているから復帰したら新しいトラックにしてあげるよ」と約束していたので、復帰に間に合うよう新しいトラックを購入しました。
復帰する前日にトラックを取りに事業所に来たときに会ったのですが、手術前よりも表情が明るくなっていて、新しいトラックにも喜んでくれていましたね。

性別適合手術には長期間休む必要もあるので、なかなか会社の理解を得られないという当事者もいるのですが、御社では問題なかったのでしょうか?

私は業務に支障がなければ問題ないと考えています。半年程前に相談してくれたので準備期間がありましたし、彼が休職しても問題ないように新たに人材を募集する中で、ちょうど入社してくれた社員がいたこともよかったです。
その新人が一人で業務を行える目途がついたので、休職に入ってもらいました。

御社では人物重視で採用をされていますが、どういった人を採用したいと考えていらっしゃいますか?

がんばれる人ですね。運送の仕事は体を使うので慣れるまでは肉体的に辛いです。1カ月程経てば慣れてくるのですが、その1カ月を乗り越えられるかどうかは大きいです。
人物的によければ、免許がなくても免許取得支援制度があるので問題ありません。
働く上で何かあれば相談に乗りますし、できる範囲で対応したいと思っています。

▼『ドランクドラゴンのバカ売れ研究所!』で紹介された大島運輸のドライバーのお仕事

今後取り組んでいきたいと考えていることはありますか?

事業所を建て替える際にはトイレや更衣室など、LGBT当事者が使いやすいように工夫したいと考えています。

また、運送業界は人が不足しています。LGBTの受け入れというと何か特別なことをしなければいけないという印象を持っている会社もあるかもしれません。しかし、実際には通称名の使用や性自認の服装を受け入れるなど、難しいことはそれ程ありません。少しの配慮で優秀な人材が採用できるなら是非採用したいという会社も多いはずです。
運送業界の意見交換会や自社の取組みをプレゼンする機会もあるので、そういった場でLGBTダイバーシティについてどんどん発信していきたいと思っています。

ありがとうございました!

編集部より
「LGBTの詳しい知識があったわけじゃないけれど、いろんな人がいることが当たり前だし偏見はない」という大島社長のお話が印象的で、セクシュアリティに関係なく一人の人として非常にフラットに向き合っていらっしゃるのだなと感じました。
また、インタビュー時には自分たちの仕事の中で社会貢献につながることがしたいと、「トラックにAEDを積もうと思っている」というお話もされていました。
大島社長は自社の発展だけでなく、社会全体をよりよくするために積極的に取り組まれているとても素敵な方でした。

LGBTインタビューvol.9 株式会社ゲオホールディングス

ダイバーシティ推進として女性活躍推進活動を行ってきたゲオホールディングスさん。あるきっかけから「LGBTダイバーシティにも取り組むべき」と感じ、活動を始めるようになりました。
インタビューでは組織開発部、人材開発課マネージャーの川辺 雅之さん、組織開発部、組織開発課の堀亜由美さんにLGBTダイバーシティのきっかけや、取り組み内容などのお話を伺いました。

LGBTに関する取り組みは堀さんからの発信で始まったと伺ったのですが、きっかけは何だったのでしょうか?

堀さん-
元々ダイバーシティ推進活動として女性活躍推進の活動をしておりましたが、LGBTに関しての取り組みは行っておりませんでした。きっかけは、中途採用でLGBT当事者かな?と思われる方から応募があったことです。

履歴書の性別欄は女性なのですが、写真はボーイッシュな雰囲気でした。その時はまだLGBTについて詳しい知識はありませんでしたが、存在は知っていたので、もしかしたら当事者なのかもしれないと思ったんです。
ただ、どう対応すればいいのかわからず、周りに相談しても対応の仕方は誰もわからないという状況でした。今後も応募があるかもしれないし、知識がないことが怖いと感じ、まずは自分自身でLGBTについて勉強を始めました。

そもそも女性活躍推進を始めたのも、自分自身が「女性」ということで、社内では少数派に属しており、周りの男性社員とは違う視点を持っていると感じていました。様々な視点を持つ人が意見を出しやすい環境にすることで、サービスのさらなる充実や新サービスの開発などにつながるのではないかと考えたからです。

少数派ということで、仕事をする中で嫌な思いをすることもありました。そういう経験をすることなく、様々な視点を持っている人たちが本来持っている力を発揮できる職場にしたいと思っています。それは女性に限らず、LGBTも同じで、取り組むことでさらに会社がよくなると思いました。

▼川辺さん、堀さん
オフィスではLGBTアライを表明するシールやグッズを身につけて業務しているそう

LGBTについての取り組みはどのように進めていったのでしょうか?

堀さん-
まずは、LGBTについて本やインターネットで調べながら勉強することから始めました。その後は東京や大阪で開催している外部セミナーにも積極的に参加しました。
勉強してみてLGBTは人口の8%※だといわれていることを知って驚きました。弊社は社員数約4,000人なので計算上では約300人いることになります。アルバイトスタッフを含めるともっといるでしょうし、今後の採用活動でも必ず出会うはずです。
LGBTの知識がないことで知らないうちに誰かを傷つけてしまっているかもしれないと思いました。まずはみんなにLGBTを知ってほしい、自分たちに何かできることがあるのではないかと思い、川辺に相談しました。

※株式会社LGBT 総合研究所 「LGBT に関する生活意識調査」 2016 年5 月実施によるデータ

川辺さんは堀さんからLGBTの話を聞いてどのように思いましたか?

川辺さん-
私もLGBTの知識はあまりなかったので、堀がまとめた資料を読んで、LGBTは人口の8%と知り、「こんなにいるんだな」と思いました。
ダイバーシティ推進の対象は女性だけではありませんし、LGBTについても何か取り組むべきだと思いました。

その後はどのように進めていかれたのでしょうか?

堀さん-
まずはLGBTを知ってほしいと思っていたので、社内研修をしたいと考えました。いつ活動がスタートしてもいいように研修用の資料やスライドの準備を始めました。
そんな中、川辺が人材開発課のミーティングでLGBTの話をしたところ、話を聞いてみたいという社員が現れました。
そこで準備していた研修資料などを使って人材開発課で簡単な講習をしました。人材開発課は社内研修を担当している部署なので、「ここはもう少し情報が欲しい」「こういう表現だとわかりやすい」といった具体的な意見やアドバイスももらうことができました。
その後、採用を行う組織開発課でも研修を行い、カミングアウトを受けたときはこういう対応をしましょうといった対応の基礎マニュアルも配布しました。

研修を実施したときのみなさんの反応はどうでしたか?

堀さん-
やはり「LGBT当事者ってそんなにいるんだ」という反応でした。ただ、LGBT当事者に会ったことがあるという人が多く、社内にもいるはずだという前提で話ができたので、とてもスムーズに進めることができました。「今まで気が付かなかったけれど失礼なことを言ってしまったかも…」という反応もありました。

会社としてLGBTについて取り組むことについて、どのように社内の理解を得ていったのでしょうか?

川辺さん-
3年前から第三者機関を使って秘匿性の高いES調査のアンケートを実施しています。これは組織の状態や会社の方針・戦略が浸透しているかを調査することを目的に始めたものです。
今年はLGBTについての直接的な質問項目はないのですが、男性と女性に性別を限定しないように配慮して、性別欄の選択肢に「答えたくない」を追加しました。
その結果、性別欄では性的指向についてはわかりませんが、「答えたくない」を選んだ人数が思ったより多く、全員がLGBT当事者かはわかりませんが、社内にもLGBT当事者がいることを数値で実感することができました。
この結果を踏まえて経営陣に話をし、ダイバーシティ推進としてLGBTについても取り組むことに了承を得ました。やはり実際の数字には説得力があったようです。

現場で研修を実施したと伺いました。これはどういった経緯だったのでしょうか?

川辺さん-
職場内でカミングアウトして働いている社員がいるのですが、その方が勤務先より遠い地域へ転勤が決まったことをキッカケに、転勤先の責任者から組織開発部へ相談があったことが始まりです。受け入れる際、職場にLGBTへの理解を事前に深めておきたいとの責任者の意向から、マネージャーなどの管理職者を含めて約20人を対象に研修を実施しました。
職場内においてLGBTに関する事例や知識が少ないと伺っておりましたので、LGBTへの基礎知識からコミュニケーションの取り方までを行いました。

研修を受けたみなさんの反応はどうでしたか?

堀さん-
LGBTについて知っていた人は3分の2人くらいでした。ただ、「セクシュアリティはいつ自認するかわからないため自分は当事者ではないと言い切れない」という話をしたことや、実際に仕事で当事者と関わったことがあるという人も多かったこともあり、みなさん積極的に話を聞いてくださいました。

LGBT-アライシンポジウム※に参加して頂きましたが、感想をお聞かせいただけますか?

川辺さん-
他企業の取り組みを具体的に聞けたことがよかったです。また、聞けば聞くほど、LGBTに取り組むことにデメリットは無いと感じました。
同性パートナーシップ制度にしても、決して優遇しているわけではなく、法律で同性婚が認められていない部分を会社が補い不公平感をなくすためのものです。こうした制度を作ること自体がLGBTフレンドリーであることを社内外に知ってもらうためのメッセージになると思いました。

また、LGBT当事者として登壇されていた方がまだ学生なのにとても話が上手なことにも感心しました。セクシュアリティは関係なく、ハイパフォーマーはハイパフォーマーなのだなと思いました。
一方でハイパフォーマーであるにも関わらず、セクシュアリティを理由に就活で不安を感じたり困ることがあるのだいうことも改めて知り、こうした人を採用するにはどうすればいいか?という視点も持つようになりました。

※LGBT-アライシンポジウムとは
LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)などの性的マイノリティを理解し支援するという考え方、あるいはそうした立場を明確にしている人である「アライ」を増やすことを目的に、LGBTダイバーシティ推進企業が集まり意見交換をするシンポジウムです。

詳しくはこちら
https://niji-recruiting.com/seminar/symposium2-2/symposium3/

最後に今後LGBTダイバーシティについて取り組んでいきたいことを教えて頂けますか?

川辺さん-
弊社内でのLGBTダイバーシティ推進の周知活動は始まったばかりです。6月にはLGBTも含めたダイバーシティに関するパンフレットを社内で配布し、さらに周知を進めていきたいと思います。
また、ダイバーシティ推進のメンバーを5月から募集開始し、約40人の応募がありました。今回はLGBT等に絞らず、「働き方改善チーム」として、幅広く募集をしたので、子育て中の女性、介護経験者など、様々な境遇の人が集まっています。それぞれの視点からの意見やアイデアを出しながら、女性やLGBTだけでなく、誰にとっても働きやすい職場にしていきたいと考えています。

ありがとうございました!

編集部より
「自分自身が社内で少数者だったから」とご自身の体験を元に取り組むべきだと感じ準備を進めたという堀さん、「LGBTダイバーシティを取り組むことにデメリットはない」という川辺さんの言葉が印象的でした。
LGBTだけでなく「誰もが働きやすい職場」という視点で活動を行うことで、少しずつ社内でLGBTの理解が広がってきているそうです。
社内研修の実施だけでなく、ピンクドット沖縄開催に併せ沖縄県内のゲオショップ店内でLGBT映画特集コーナーを設営、TOKYO RAINBOW PRIDE 2017のNijiリクルーティングのブースにパネル出展など、活動の幅も広がっています。

▼TOKYO RAINBOW PRIDE 2017 Nijiリクルーティングブースでのパネル出展

▼沖縄県内のゲオショップ内で開催されたLGBT映画特集コーナー

LGBTインタビューvol.8 日本オラクル株式会社

2017年3月から同性パートナーシップ制度を始められた日本オラクル株式会社さん。LGBTダイバーシティを推進することになったきっかけは、2015年に社員主導で発足したLGBTアライと当事者のコミュニティ「OPEN」の活動でした。
今回は、OPENの設立メンバーである、赤木眞理子さんと川向緑さんにお話を伺いました。

赤木眞理子さん(写真右)
日本オラクル株式会社
カスタマーサポートサービス統括 E-Business Suiteサポート本部 生産管理サポート部 部長

川向緑さん(写真左)
日本オラクル株式会社
コーポレート・シチズンシップ プログラム・マネージャー

赤木さん、川向さんはコミュニティ「OPEN」の設立メンバーとのことですが、まずはコミュニティ発足のきっかけを伺えますか?

私たちの元同僚にLGBT当事者の方がいました。彼はフルオープンで、私たちも他の社内のメンバーも特別視することなく、とても自然に接しており、それが当たり前でした。

彼は転職をしたのですが、転職後に亡くなってしまいました。
お葬式に参列した際、転職先の職場ではセクシュアリティをオープンにしていなかったことを知りました。

あるときSNSでやり取りしている際に「自分のようにオープンにできる当事者は少ないから」と言っていたことを思い出しました。
当時はLGBT当事者が存在することを当たり前のことだと認識していましたが、日本ではまだまだこのような社風というのは珍しいのだということを認識しました。

お葬式の帰り、私たちにも何かできることはないかという話になり、これがきっかけでコミュニティが発足されました。
そのときはまだLGBTやアライという言葉も知らなかったです。

コミュニティの最初の活動はどのようなものだったのでしょうか?

当初メンバーは4、5名で、LGBTについて学ぶことから始めました。
それぞれが本を読んだりセミナーに参加するなどして学び、学んだことをランチ会などで共有し合いました。勉強をしていく中でアライという言葉を知り、お金を出し合ってアライシールも作りました。

あるとき、アメリカ法人の同僚に相談したところ、アメリカには既にLGBTのコミュニティ「OPEN」があるということを教えてもらいました。日本ではまだ活動していなかったので、私たちも「OPEN」として活動しようということになりました。

現在、日本のOPENにはアライとLGBT当事者どちらも在籍していますが、カミングアウトは強制するものではないので、誰が当事者であるかは明確にはしていません。

現在、OPENの活動はどのようなことを行われていますか?

メンバー同士で情報共有を行うランチ会の実施や、社内メンバーに向けたお昼の時間のセッションの開催、管理職向けの研修の企画や運営をしています。
社内セッションは、自社のカフェスペースを使ったり、メールで告知するなどもしています。
また、今年はTOKYO RAINBOW PRIDE 2017にも出展しました。

▼TOKYO RAINBOW PRIDE 2017のブース前にて。当日はパレードにも参加した。

4、5名のメンバーから始まった活動が、現在では会社全体としてのLGBTダイバーシティの取り組みになっています。何かきっかけはあったのでしょうか?

人事のメンバーに2015年の秋に行われたwork with Prideに参加してもらったことが大きかったと思います。
会社全体にこの活動を広げていきたいと話している頃、work with Prideの事前ワークセッションが行われることを知りました。本来は新規での参加はできなかったのですが、主催の方に私たちの想いを伝えたところ、参加を認めてもらえました。
社内への浸透に重要だと考え、カンファレンスには是非人事のメンバーにも参加してほしいと伝え、参加してもらうことにしました。

人事のメンバーはwork with Prideで初めてセクシュアリティをオープンにしているLGBT当事者と会い、話を聞いたそうです。
「実際に会ってみたら普通の人たちだし、もし会議で隣に座っていても気が付かないだろう、もしかしたら同じ部にもいるのかもしれないと感じた。当事者の言葉で働く上でどんなことに困っているのか聞くことができた」と話していました。
これがきっかけでLGBTダイバーシティは必要だと改めて感じてくれたようで、その後の社内研修の実施や、同性パートナーシップ制度の導入などにも繋がっていきました。

御社では2017年1月に同性パートナーシップ制度を導入されましたが、これはどのようなものでしょうか?

LGBT当事者が安心して働ける福利厚生制度にすることを目的に、制度を改訂しました。
同性カップルや事実婚などの関係にある社員も、法令で婚姻関係にある社員とほぼ同等の福利厚生制度が適用されるようになりました。
具体的には、慶弔金や育児・介護休職、家族を対象とした病床休暇、企業負担の加入保険などに関しては、ほぼ同等水準に拡充しました。
同性パートナーを申請する際には、法令で婚姻関係にある社員に求めている以上のものは求めていません。

管理職向けのセミナーも開催されているとのことですが、これはどのような内容でしょうか?

全管理職向けにLGBTに関する集合研修も行っています。
研修の企画にはOPENのメンバーも関わっており、人事や研修講師の方などと議論を重ねて企画しました。
こだわったポイントとしては、ロールプレイングです。例えばカミングアウトする側とカミングアウトを受ける側に分かれて話をしてみるなどです。ロールプレイングをすることで、自分事として考えられるようになり、「カミングアウトって緊張するんですね」といった声が挙がっています。

研修を実施する前と後でアンケートを実施しているのですが、「LGBT当事者と働くことについて」の質問で、研修後は「抵抗がある」という回答がほとんどなくなります。
このことからも研修を実施することの効果を感じています。

その他に、LGBT当事者の働きやすさを考慮した取り組みはありますか?

セクシュアリティを理由に差別を行わないことを公式サイトのダイバーシティ&インクルージョンのページ で発信しています。
また、以前は男女別の服装規定があったのですが、現在は男女に分けずに記載しています。通称名やトイレの使用に関しても、要望があれば対応する予定です。

その他には、LGBT専門の相談窓口を設置しています。
相談の対応は人事とOPENのメンバーで行っています。それぞれのメールアドレスを社内で告知し、誰に相談してもよいようにしています。
相談者のプライバシーを守るため、お互いに相談があったことは共有しないようにしています。

LGBTダイバーシティを推進する上で、社内の理解を得られず悩むという企業さんもあるのですが、御社の場合はどうでしたか?

弊社の場合は反対意見はなかったです。もともと企業ポリシーにダイバーシティ&インクルージョンが含まれていること、既にアメリカではLGBTダイバーシティの活動を行っていたこと、社員が自発的に動くことを応援する社風であることが大きいかと思います。

最後に今後取り組んでいきたいことについて伺ってもよろしいでしょうか?

まだまだ試行錯誤中なので、取り組みたいことはいろいろあるのですが、今は東京のみで行っているコミュニティ活動を、各拠点でも行っていきたいです。相談窓口に関しても、相談に応じることができる相談員を育成していきたいです。

こうした活動を行うことで、最終的にはコミュニティがなくなることが理想です。
コミュニティの活動がなくてもLGBT当事者がインクルージョンされている職場になれば実現されるのではないかなと思っています。

ありがとうございました!

編集部より
社内のコミュニティ活動が発端となって会社としてLGBTダイバーシティを推進している日本オラクルさん。
コミュニティ発足から、様々な取り組みを開始するスピードが速いなと感じました。
元々社風として取り組みやすい環境であったとのことですが、やはり新しい取り組みを始める際には強い想いやリーダーシップが必要です。
今回インタビューでお話を聞き、赤木さん川向さんの強い想いを感じることができ、だからこそここまでスピーディーにダイバーシティが推進しているのではないかと感じました。

LGBTインタビューvol.7 株式会社ダイヤモンド社

LGBTという言葉が新聞やテレビで取り上げられることが増え、「ブーム」のように感じる人も少なくありません。しかし、LGBTをはじめとしたセクシュアルマイノリティについて知り、理解することは決してブームで終わらせてはいけない…そんな想いから誕生した雑誌「Oriijin」。
今回は「Oriijin(オリイジン)」の編集長である、株式会社ダイヤモンド社のクロスメディア事業局の福島宏之さんにお話を伺いました。

「Oriijin(オリイジン)」とは

ダイヤモンド社が2017年3月に出版した雑誌。
「ココロ」と「多様性」の話を軸に、LGBT当事者・非当事者の双方にとって有効な情報をとりまとめ、多様な人物が“わたしのココロスタイル”と称して、自身の心の在り方を発していく。同時にダイバーシティを推進する企業や人事担当者に向けた、LGBTについての“A to Z”を併せ持つ。

「Oriijin(オリイジン)」出版のきっかけは何だったのでしょうか?

スタートは、「世の中にとって価値のある情報を、新しい雑誌で出版したい」という想いでした。
今はネットで検索すれば気軽に様々な情報を得られますが、便利な一方、ネットは情報量が多すぎて、見たり読んだりするのに疲れている人も多いのでは?と思います。
また、ネット「検索」では目的以外の情報はなかなか得られません。しかし、雑誌というメディアは、たまたま本屋で見かけたとか、他の特集を読んでいたら知らなかった情報も掲載されていた……など、偶然に得られる情報もあることに価値があります。
もともと、私は雑誌の編集者なので、雑誌への思いもことさら強かったです。

なぜLGBTをテーマにしたのでしょうか?

「Oriijin(オリイジン)」は、弊社の各部門を超えて、多様な有志メンバーでアイデアを出し合って創り上げた雑誌です。
「LGBT」については、自然発生的にメンバーから出たものですが、当初、私自身は消極的でした。

なぜLGBTをテーマにすることに消極的だったのですか?

誰を想定読者にし、情報発信するべきか…そこに、他のテーマにはない難しさを感じたからです。
当事者の方か、アライの方か、LGBTにまったく知見のない人たちか?
LGBTの当事者やアライの方々は、既に知識も見識もあるでしょうから、基礎的な情報を発信しても意味がなく、物足りないはずです。カルチャーやライフスタイルについても、ビジネス系出版社の弊社がはたして読者満足度の高い情報を発信できるのか?
「LGBT」をメインコンテンツにしたときに、誰にどういう情報を発信すべきかを、かなりの時間を割いて考え、迷い、メンバーで討議を重ねました。
「ダイバーシティやLGBTをテーマにすることにはたいへんな意味がある」という意思だけはブレませんでしたが…。

ご存じのように、2020年の東京オリンピックのエンブレムである組市松紋には「多様性と調和」というメッセージが込められています。
東京をはじめ、日本は2020年に向けて、社会がダイバーシティ推進へと動いています。しかし、LGBTという言葉自体を知らない人もまだ多いですし、理解促進に向けて、一出版社の私たちが雑誌メディアでやるべきことがあるのではないか?と、討議に熱が入りました。

もうひとつ言えば、弊社が渋谷区にあるということも、私の中では大きかったです。東京レインボープライドのパレードは、弊社前の明治通りがコースになっています。フェスタの会場である代々木公園と弊社の社屋は目と鼻の先です。同性パートナーシップ制度が導入されている渋谷区の出版社が、LGBTをテーマにした雑誌を創ることに価値があるのではないか、と。

ダイヤモンド社の本社はTOKYO RAINBOW PRIDEのパレードの沿道にある

TOKYO RAINBOW PRIDE 2017には「Oriijin(オリイジン)」としてブースを出展した

「Oriijin(オリイジン)」というタイトルやキャッチコピーである「暮らす&働く わたしのココロスタイル」はどのように決められたのでしょうか?

性自認や性的指向と、それぞれの人の心(ココロ)は密接な関係にあります。
LGBT当事者か非当事者かに関わらず、人は誰もが自分の性自認と性的指向を持っています。
自分の心(ココロ)にプライドを持ち、他者の心(ココロ)の在り方をリスペクトしていくこと……それが何よりも大切と考え、私たちは「ココロスタイル」というキーワードを掲げました。
雑誌のタイトル案は20ほどありましたが、メンバーの総意で最終的に「Orijiin(オリイジン)」に決定しました。その意味は編集後記にも書きましたが、誰にでも分かると思います。

実際に様々なフォントで作成したタイトル案と、新媒体を企画するにあたっての企画書

編集の際にこだわったのはどのようなところでしょうか?

LGBTの当事者、非当事者、NPO関係各位など、たくさんの方々にお話を伺い、アドバイスをいただきながら制作を進めました。
また、「雑誌」というアナログメディアならではの見せ方にもかなりこだわりました。たとえば、冒頭のタレントインタビューは2ページ構成ですが、見開き完結にせずに、片ページ起こし(=ページをめくって本文が表れる構成)にしています。
マウスでスクロールして情報を得るのではなく、指でページをめくって、紙の質感とともに情報を得ていただく……桜の季節に発売した雑誌なので、ある特集ではページ全体で桜を満開にさせています(笑)。

雑誌のテイストが明るくカラッとした雰囲気なのも心がけたことです。企画のテーマやデザイン、本文、写真、イラストの見せ方で、誰にでも手に取りやすいようにしました。
さらに、「誰にでも手に取りやすい」という創りとしては、井ノ原快彦さん・さだまさしさん・小林幸子さん・ヒロシさん・小島瑠璃子さんといった人気アーティスト・タレントの皆さまにもご登場いただき、「ココロスタイル」を語っていただきました。それは、LGBTに関心のない人たちにも、雑誌に触れていただきたいという考えがあってのことです。
実際、自分の好きなタレントが載っているから買ったという方から、「他のページを読んでLGBTのことが良く分かりました」という声をいただき、SNSでも拡散してくださいました。

明るい雰囲気の誌面

次回以降に取り上げてみたい特集などはありますか?

今回はトランスジェンダーの方があまり登場していないので、次回はきちんと情報発信させていただく予定です。私たちメディア側も「LGBT」と一口に括ってしまいますが、LGBT以外のセクシュアル・マイノリティの方も多くいらっしゃいますし、当然、L・G・B・Tの方々それぞれで、社会生活における悩みや考え方は異なります。
また、小誌は「インクルージョン&ダイバーシティ マガジン」ですので、LGBTをはじめとしたセクシュアル・マイノリティに限らず、多種多様な“ココロスタイル”で形成される社会について、然るべき情報を、正しく発信していくつもりです。
ダイバーシティを推進する企業・自治体・学校法人の情報なども、たくさんの方にお話をいただきながら、雑誌メディアという独自のスタイルでまとめていきたいと思います。

ありがとうございました!

編集部より
ダイヤモンド社といえば、週刊ダイヤモンドの出版や、「嫌われる勇気」といったビジネス書・経済書をはじめとした幅広いテーマの出版物を制作する会社さんです。
「Oriijin(オリイジン)」は、様々な角度からLGBTを特集しており、内容の堅さ柔らかさのバランスがちょうどよく、LGBT当事者もアライも、LGBTにそれ程詳しくない人にとってもおもしろく読めるのではないかと思います。そんなところがダイヤモンド社さんならではの雑誌だな、と感じました。
インタビューでは企画段階から出版まで、福島さんを中心に多くの方の熱い想いが詰まっていることを知れました。次回の「Oriijin(オリイジン)」発行もとっても楽しみです!

LGBTインタビューvol.6 世田谷区の同性パートナーシップ

2015年に世田谷区・渋谷区が同性パートナーシップ制度を開始したことは大変話題になりました。
これが大きなきっかけとなり、日本でのLGBTの注目度が急上昇し、同性パートナーシップを導入する自治体が増え、LGBTに配慮しようとするLGBTフレンドリー企業も急増しました。
今回は世田谷区の同性パートナーシップ制度の導入から運用に携わっている、世田谷区、生活文化部人権・男女共同参画担当課長の若林一夫さんに、導入のきっかけや運用する上で感じることについてお話を伺いました!

▼profile
世田谷区 生活文化部
人権・男女共同参画担当課長 若林一夫さん

なぜLGBTの支援を始めたのでしょうか?

LGBTの支援、特にパートナーシップ宣誓の取り組みを始めたきっかけは、当事者の方々から「地域社会の一員として、自分たちの存在を認めてほしい」という要望があったことが大きいと思います。

LGBT当事者は日本の人口の3~7%とも言われており、5%で計算すると世田谷区にはおよそ45,000人ほどになります。ただ、現状ではカミングアウトしたくてもできない方も多いと考えられるため、存在がはっきりわからず、当事者の方々からすれば存在を認めてられていないと感じられているのではないかと考えられます。また、偏見を持たれることや、差別的な扱いをされることも少なくありません。

世田谷区では、基本計画において多様性の尊重を掲げ、女性や子ども、高齢者、障害者、外国人、性的マイノリティなどを理由に差別されることなく、多様性を認め合い、人権への理解を深めるため、人権意識の啓発や理解の促進をしています。

そのような経緯から、LGBT当事者の方々の人権を尊重するための施策のひとつとして、区が同性カップルの気持ちを受け止める同性パートナーシップ宣誓の取組みを始めました。

世田谷区の同性パートナーシップ宣誓はどのようなものでしょうか?

世田谷区でいう同性カップルとは、互いをその人生のパートナーとして、生活を共にしているかまたは共にすることを約した性を同じくする二人のことです。
パートナーシップの宣誓とは、二人が同性カップルであることを区長に対して宣誓することをいいます。区は受け取った宣誓書に受領印を押して、その宣誓書の写しとパートナーシップ宣誓書受領証を同性カップルにお渡しします。

宣誓を希望される方には事前にご連絡を頂き、宣誓日の予約を取っていただきます。やはり周りの目が気になるという方も多いので、宣誓当日は会議室などで、宣誓していただきます。時間は概ね30分ほどかかります。2015年11月からこれまでに48組の宣誓がありました(2017年3月末時点)。

世田谷区の同性パートナーシップ宣誓の要件

次の(1)(2)に該当する同性カップルの方が宣誓を行うことができます。

(1)二人とも20歳以上であること。
(2)二人が区内に在住であること。または、一人が区内在住で、もう一人が区内への転入を予定していること
また、区長はパートナーシップの宣誓をしようとする同性カップルの共にする生活が公序良俗に反すると認められる場合には、宣誓書の受領は行いませんので、宣誓する前に、次の(3)から(5)に該当しないことを確認します。
(3)二人とも他の人と法律上の婚姻関係にないこと。
(4)二人とも他の人とパートナーシップ宣誓をしていないこと。
または、宣誓したことがある人の場合、宣誓書廃棄の手続きをしてあること。
(5)二人の関係が親子または兄弟姉妹ではないこと。

宣誓をしたカップルの方からはどのような反応がありましたか?

宣誓をしたカップルにアンケート調査をお願いしたところ、「二人の関係(存在)を公的な立場の人に伝え、認知された。存在を認められて安心感を得られた」「宣誓を機に、会社にカミングアウトした。特に人事上の制度はないが、周囲に受け入れてもらえた」など、様々な回答が寄せられました。
既に結婚式は挙げたというカップルの方で「家族を式に招待したけれど、参列してもらえなかった」という方もいました。
毎回感じることですが宣誓書を受け取ることに責任を感じますし、この取組みはとても意義があることだと思います。

LGBTの方と接する際に気をつけていらっしゃることはありますか?

LGBT当事者の方は、偏見を持たれることや、差別的な扱いをされる経験のある方が多いといわれています。
そのためちょっとした言葉づかいや態度からいろいろ感じられて気にされる方も多いので、細心の注意を払う必要があると思います。

正しい知識を持つことはもちろん、誤解を招くような言葉や態度は厳に慎むべきだと思います。これはLGBTの方かそうでない方かに関わらず、やはり相手の気持ちをしっかりと汲み取り、思いやることが大切だと思います。

LGBTダイバーシティを推進しようとする企業が増えてきています。企業が取り組む上で大切なことは何だと思われますか?

LGBT当事者は身近な存在であることを認識することが大切だと思います。人口の5%がLGBT当事者であるというデータをもとに計算すれば、社員数100人なら、5人はLGBT当事者ということになりますよね。
そう考えると身近な存在として捉えられますし、どこの企業でも多様性を尊重し、LGBTに配慮した取り組みを進める必要があると考えられるのではないでしょうか。

また、LGBTに配慮した取り組みを進めるにあたっては、まずは「知る」と「聞く」が大切なのではないでしょうか。
LGBTについて正確な知識を身につけ「知る」こと。
そしてどんな配慮があるとうれしいのか、どんなことに困っているのかなど、LGBT当事者の声を「聞く」ことがとても大切だと思います。

編集部より
世田谷区が同性パートナーシップ制度を開始したことは、確実に世の中を動かしたのではないでしょうか。
同性カップルの方と触れ合う中で、「宣誓書を受け取ることに責任を感じますし、この取組みはとても意義がある」と感じているという若林課長の言葉が印象的でした。

LGBTインタビューvol.5 株式会社資生堂

TOKYO RAINBOW PRIDEへの出展や、2017年1月に開始した同性パートナーを平等に処遇する規定改訂、LGBTダイバーシティにも積極的に取り組む株式会社資生堂さん。
LGBTに関する取り組みのきっかけや、活動内容などを、人事部ピープルマネジメント室、育成グループマネージャーの春日裕勝さんにお話を伺いました!

御社ではLGBTに関する取り組みはいつ頃から始められたのでしょうか?

2010年頃から岡山大学病院にて、性別適合手術をされた患者さんへのメーキャップを中心にアドバイスを実施していました。
また、店頭にはLGBT当事者のお客様が来られることもあり、美容職の皆さんは以前から身近に感じていたようです。

LGBT支援プロジェクトを本格的に開始したのは2014年の年末で、「知る・触れる・受容する」を理念として進めることを社内に発信しました。

本格的に開始するきっかけは、日本社会でのLGBTを含むダイバーシティの必要性の高まりから、自社も取り組まなければいけないと考えていたからです。

また、私自身、アメリカでの勤務経験から欧米に比べて日本はLGBTの理解、受容が遅れていると感じていました。
アメリカではLGBTの方が自然に受け入れられていました。仕事で関わるメーキャップアーティストの中にもLGBT当事者の方は多かったですし、身近な存在でした。

アメリカと比較すると、日本ではLGBTの方が特殊な存在と捉えている人がまだまだ多いように感じます。そのために差別的な扱いを受けている方も多いのではないかと思います。
LGBT当事者の社員が働きやすく、LGBT当事者のお客様にも支持してもらえる会社でありたいと考え、LGBTダイバーシティを進めなければいけないと考えるようになりました。

LGBTダイバーシティを始めるにあたり、どんなことから始められましたか?

まずは何よりも「知る」ことが大切だと考え、社内でのLGBTセッションを開始しました。
セッションでは、LGBTの正しい理解・正しい知識の共有、LGBT視点のマーケティングなどを考える場になっています。
2015年7月に全体セッションを実施し、それ以降は各部門の朝礼等でもセッションを開催しています。

また、2015年5月にはTOKYO RAINBOW PRIDE(以下TRP)にグループ会社のベアエッセンシャルに協賛してもらい出展しました。
TRPへの出展は、イベントを通じてLGBTを知るきっかけになるだろうとの考えからです。
ベアエッセンシャルはもともとサンフランシスコに本社があり、当地はLGBTの方が多い街として有名です。それもあって、TRPの出展を打診した際にはすぐに快諾してもらえました。

▼OUT IN JAPANへの参画も2015年8月より行っている。
OUT IN JAPANは、LGBTへの理解を深めるため、市井のLGBTをプロの写真家(レスリー・キー氏)が撮影、各所で展示していくイベント。資生堂はヘア/メイクを担当している。

2016年5月のTRPには資生堂として出展されましたが、どのようなことをされたのでしょうか?

メーキャップアドバイスやサンプリング活動を行い、多くの方に好評頂きました。
TRP出展にあたっては、事前にLGBT支援プロジェクトチームが各支店をまわって説明会を開催しました。その結果イベントスタッフとして総勢144名がボランティアで参加してくれました。
LGBTについて「知る」「触れる」機会になり、イベントスタッフからは「楽しかった」という意見も多かったです。
また、「自分のスキルupになった」という意見もありました。男女で肌質に違いがあるので、男性の肌にメイクをする際には、女性のときとは違う工夫が必要だと感じたそうです。
そうした意見から、ジェンダーフリー視点の化粧品を開発しようという議論も出てきて、改めて出展してよかったと感じます。

▼スタッフがつけているオリジナルスカーフは、宣伝/デザイン部 がボランティアで制作したそう。

2017年1月に同性婚認定の規定を改訂されたそうですね。

「受容する」の一環で、配偶者の解釈を拡大して同性パートナーも含む形に改訂しました。
同性パートナーを配偶者とするにあたり、どの規定を改訂すべきかは社内でもディスカッションを重ねました。
弊社のLGBT支援プロジェクトチームは専属のメンバーはおらず、全員兼務で行っています。そのためスケジュールの調整が難しいこともあり、改訂までに時間がかかりました。
ただ、いろんな部署から集まったチームなので、人事、美容職、マーケティングなど、様々な視点から意見を交わせることはメリットだと感じています。
また、チームには1名LGBT当事者もいます。当事者の意見を聞くことができ、貴重な存在です。

最後に今後についてお聞かせください。

知る・触れる・受容するという理念でスタートしたLGBT支援プロジェクトですが、ようやく同性パートナーをこれまでの配偶者と同様に処遇する規程も導入することができました。
徐々にですが社内でのLGBT理解も広がり、受容へとつながってきているように感じます。

2017年もTRPへの出展や、LGBT学生への就活支援、社内外のLGBTアライを増やす活動など、様々な活動を通して、理念実現に向けて動いていきたいと思います。

編集部より
就職先としても非常に人気の高い資生堂さん。
以前からLGBTの存在は身近であったそうですが、会社として本格的にLGBTダイバーシティに取り組むようになり、より一層あらゆる個性を持つ人が働きやすい会社になっているのではないでしょうか。
また、今後はジェンダーフリーな化粧品の開発のアイデアも出ているなど、顧客向けサービスとしてもLGBTフレンドリーな展開が期待できそうですね!

LGBTインタビューvol.4 スターバックス コーヒー ジャパン株式会社

アメリカ、シアトルからスタートしたスターバックスコーヒーさん。多様性を尊重する企業風土は日本法人であるスターバックス コーヒー ジャパン株式会社さんでも根付いています。
実際にLGBT当事者の方もたくさん働かれているという同社で、2017年1月1日から同性パートナーシップ制度がスタートしました。制度導入のきっかけなどを、人事本部、人事部、ダイバーシティ&インクルージョンチーム、チームマネージャーの髙坂裕二さん、前田由紀さんお話を伺いました。

2017年1月1日に同性パートナーシップ制度を開始されましたがきっかけは何だったのでしょうか?

アルバイトから社員登用することになったある社員からのメモがきっかけです。
その社員は戸籍上同性(FtMトランスジェンダー)のパートナーがいます。社員登用する際の書類に「同性パートナーを家族として登録してください」とメモが添えられていました。

当社は元々、多様性を尊重する企業文化があり、LGBT当事者の方もたくさん活躍しています。そのため、この社員は「スターバックスは同性パートナー制度がある」と思い申請を出したようです。

当たり前のようにさりげなく添えられたメモが、さりげないからこそ、響くものがありました。
LGBT当事者の方が自然に存在している企業ではあるけれど、制度としてまだ不十分であることを改めて考えさせられ、これがきっかけとなって同性パートナーシップ制度を導入することになりました。


▲「世界一美しいスタバ」として有名になったスターバックス富山環水公園店

同性パートナーシップ制度の導入はどのように社内に発信されたのでしょうか?

社内への制度導入の発表はトップメッセージを添えて2017年1月4日にイントラネットで行いました。
社内制度に関する連絡などの業務連絡は、イントラネットを通じて行っているのですが、同性パートナーシップ制度もそのひとつとして、特別に扱うことなく発信しました。
特別に扱うことで、逆にスポットライトを浴びてしまうのではないかという考えからです。

同性パートナーシップ制度は、2017年1月4日より以前から、検討中であることは社内に発信していました。
2016年9月に全国の店長、エリアマネージャーが集まる会議でのCEOからの発信の他、半期に1回開催される「会社をよりよくするための提言をしたい」と考える社員が自ら手を挙げて集まる会議でも発信しました。

同性パートナーシップ制度を導入されて社内の反応はいかがでしたか?

同性パートナーシップ制度を開始してすぐに4人から申請がありました(2017年2月時点)。
そのうちの1人は、制度導入のきっかけとなったメモを添えてくれた社員でした。

申請があった4人以外からもよいメッセージを頂きました。
LGBT当事者の方から「勇気が持てた」という意見もありましたし、スターバックスでの勤続意欲が上がったといったような意見もありました。

ポジティブな意見が多かった理由のひとつは、スターバックスにはMission & valuesが浸透しているからだと思います。
この中には「お互いを心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります」という一文があります。この「誰もが」という部分に社員は共感してくれているのではないかと思います。

▼Mission & values

スターバックス コーヒー ジャパン株式会社コーポレートサイトより

同性パートナー申請にはどのような要件がありますか?

当社の法務部門や弁護士とも相談した結果、結婚した際に行う家族登録で求めている以上の要件は求めないとなりました。

当社の同性パートナーシップ制度の目的は、日本では合法化されておらず結婚できない同性カップルが、結婚できる異性カップルと平等の待遇が受けられるようにすること、「公平である」ことを第一に考えているからです。
第三者の承認も不要としているので、その代わりに申請できるのは20歳以上としています。

また、申請があった社員とは、必ず面談をするようにしています。
制度の理解を深めることや、本人の希望をきちんとヒアリングすることを目的としています。
例えば、同性のパートナーを家族として登録した社員が結婚休暇を取得する際には、結婚をしている社員と同じように手続きを行います。手続き上、同性パートナーがいるということが関連部署に知られてしまうことがあるので、カミングアウトはどの範囲で行いたいのかなどを確認しています。

申請を受領した際には受領証を発行しているのですが、同性カップルの方は結婚が合法化されていないので、家族として登録したことを署名する書類にとても喜んでくださる方もいました。

▼実際の同性パートナーシップ登録申請書と、受領証
登録が受領されると、代表のサインと社印が押印された書類が社員に渡される。

最後に今後についてお伺いできますでしょうか?

制度を導入しただけでは終わらせたくはないと考えています。
LGBTの正しい知識と理解を促進するための社内研修を実施していますが、今後もLGBT当事者の方が働きやすい環境を整えるためのこのような活動を広げていきたいと考えています。

 

編集部より
LGBT当事者だけに限らず、多様なバックグラウンドを持つ方が活躍されるスターバックスさん。
誰もが働きやすい職場だからこそ、居心地よい空間をお客様に提供できる素敵な店舗展開が可能なのではないかな、と感じました。
インタビュー時に訪問させていただいた本社オフィスもとっても素敵でした!

LGBTインタビューvol.3株式会社丸井グループ

TRPへの協賛や、LGBT配慮の指標となるPRIDE指標でシルバーを獲得するなど、LGBTダイバーシティを積極的に進める丸井グループさん。
その想いやきっかけはどこにあるのか、株式会社丸井グループ、CSR推進部マルイミライプロジェクト担当課長の井上道博さんにインタビューしました。

本日はよろしくお願いします。まずは御社での取り組みについて伺えればと思います。

丸井グループでは、『年齢・性別・身体的特徴を超えた「すべてのお客さま」が、インクルードされ「しあわせ」を感じられる豊かな社会』というテーマで様々な取り組みを行っています。

弊社はこれまでも時代に合わせた商品開発やサービスの提供を行ってきました。
その中で、LGBTのお客様にも楽しんで頂けるお店づくりを行っていくのは、必然的であったとも言えます。

LGBTに注目するきっかけは何かあったのでしょうか。

弊社の代表が、杉山文野さんにお会いしたことがきっかけです。「すべてのお客様」に向けてと謳っているのにLGBTの方々の理解が進んでいないことに気づき、2016年2月に400名の社員に向けて、杉山さんに講演をして頂きました。その講演をきっかけに杉山さんが共同代表をされているTOKYO RAINBOW PRIDE2016※(以下「TRP」)に協賛することを決め、これまでは何もできていなかったけれども、まずは我々ができる事からはじめていこうということなりました。

※TOKYO RAINBOW PRIDE2016とは
東京渋谷で毎年1回開催される日本最大のプライド・パレード(LGBT当事者が自分らしく生きられる社会の実現を目指し、パレードやパフォーマンスを行うイベント)。多くの企業・団体がブース出展などを行っており、2016年5月開催時は7万人が参加した。

なぜTRPを最初の取り組みに選ばれたのでしょうか?

TRP会場近くの渋谷・新宿に5つの店舗があった事そして、丸井グループがLGBTフレンドリーを目指していくことを宣言するには、一番効果があると考えました。また、その取組みが広く発信されれば、今後、この取組みを進めるうえで、どのような事が課題なのか等を、当事者の方々含めた多くのお客様と、一緒に考えることにより、喜んでいただけるようになれるのでは思ったからです。

私たちの活動を喜んでくれるお客様がいれば、社員はうれしいですし、自分たちが仕事を通じて社会をよくするために役立っていると感じられれば、やりがいをより強く感じられるようになります。そうすれば、社内でもLGBTを理解しやすい雰囲気をつくれるのではないかと、考えました。

TRPに協賛されることに対して社内の方の反応はいかがでしたか。

TRPに協賛することが自社にどんな影響があるのか、最初はみんな半信半疑でした。

社内のLGBT理解をもっと高めてからの方がよいのではないか、という意見もありました。
また、LGBTに対してネガティブな感情を持っている人も中にはいますよね。そういう方に対してはマイナスのブランディングになるのではないかという意見もありました。

確かにそういったことも考えられますが、それよりもTRPに協賛することで得られることのほうが大きいのではないか、という判断で、参加することを決めました。

TRPではどのようなことをされましたか?

パレードのコース上にある渋谷のマルイとモディでは、店頭大型ビジョンをレインボーで飾ったり、外壁にレインボーフラッグを掲げました。
店内にもレインボーフラッグを多数設置し、スタッフはレインボーのバッジを着けて接客しました。

渋谷モディの店長はTRP当日、店頭に立ってパレードの参加者の方々と、とても楽しそうにハイタッチをしていました。
それまで、TRPを実際に自分の目で見たことはなかったそうですが、参加してみたら、皆さん笑顔で楽しそうにパレードされているし、弊社のレインボーフラッグを観て、感激してくださる方が多く、とてもびっくりしたそうです。
お客様アンケートでも「感謝します」といったコメントもあり、自分達のしたことが、ここまで喜んでいただけて、大変嬉しかったと話していました。
実は、TRP参加前では、LGBTの取組みに対する社内の賛同者はそれ程多くなかったのですが、参加後は賛同者がかなり増えました。

▼TOKYO RAINBOW PRIDE2016期間中の渋谷の丸井とモディ

社内でのLGBT理解促進のために実際はどのようなことをされていますか

当事者の講師をお呼びしての研修や、当事者の方々を交えたグループワークを通じての
理解促進。そして、店舗や本社ビルでの「OUT IN JAPAN」写真展の開催などを行っています。
OUT IN JAPANのモデルをされている方々は、みなさんとてもいい笑顔をされています。
私たちもお客様にこういった笑顔をしていただけるようなサービスができるようになりたいね、という話をみんなでしています。
そうすることで、すべての人が幸せに豊かに生活できる社会にすることに、少しでも貢献できるのではないかと感じています。

▼社内研修の様子

▼本社にて行ったOUT IN JAPANの展示の様子

ダイバーシティ&インクルージョンの活動は「マルイミライプロジェクト」という名称で、グループ企業横断で行っています。参加している従業員は、それぞれの会社・店舗・事業所・部署の代表です。
プロジェクトで学んだ知見やアイデアを各自の現場に持ち帰り、店づくりやサービスなどにどう活かせるかを考え、実行しています。

このプロジェクトに参加して、初めてLGBTという存在を知ったという従業員もいます。
トランスジェンダーの方で自分に合ったサイズがなくて困っているということを知り、大きいサイズのシューズを全型並べるなどの工夫を行ったり、自分の店舗の従業員に、理解を深めてもらうため、店舗内の休憩室にLGBTの案内ブースを設置するなど、それぞれが自分たちで考え自発的に行動をしています。

▼幅広いサイズ展開をわかりやすく展示

今後はどのようなことを行っていきたいですか?

LGBT当事者のお客様に向けては、もっとしっかりと多くのご意見を伺いながら、さらに支持していただけるような売場づくりやサービスに、今後も力を入れてきたいと考えています。

社内に向けては、まずはお客様に向けた取組みを広げていくことで、社内風土を醸成し、自然とLGBTの社員も働きやすい環境づくりが進んでいくようになっていくことを目指しています。
弊社では以前から障害者雇用や女性活用にも力をいれてきましたが、LGBT当事者を含む、多様な個性を持った人材が、さらにいきいきと活躍していってほしいと願っています。
LGBTに配慮したサービスを今後さらに展開していくためにも、LGBT当事者の意見は欠かせない要素です。

社内にもすでにLGBT当事者は存在すると思いますが、入社後にカミングアウトをするのは勇気がいるでしょうし、カミングアウトは個人の自由なので会社側が促すものではないと考えています。

残念ながら、社内制度等の整備は、まだまだ全く手を付けられてはいませんが、まずは、LGBT当事者の方にも安心して応募していただけるような企業になるために、採用面接担当者の研修なども予定しています。

LGBTインタビューvol2.株式会社チッタエンタテイメント

LGBTフレンドリー企業に取り組み内容などをインタビューをする企画。
第2回目は株式会社チッタエンタテイメントさんです!

川崎駅前にある商業施設ラ チッタデッラは、「イタリアのヒルタウンをモチーフに作られたエンタテイメントの街」として、ショップ、レストランの他、映画館やライブホールなどが集る商業施設です。

2016年で20年目となる「カワサキ ハロウィン」は、大規模なハロウィンイベントとして有名です。この他にも様々なイベントを開催しているラ チッタデッラにて、LGBT関連イベント「今めかしないと」の開催中とのことで、開催の経緯や今後について、株式会社チッタエンタテイメントの取締役プロモーション本部長土岐 一利さんにお話を伺いました。

「今めかしないと」とは
音楽、アート、カルチャーの最先端を生み出す街、新宿二丁目と、チッタがコラボレートしたクラブイベント。
詳しくはこちら

rainbow

LGBT関連イベント「今めかしないと」を始めた経緯を教えてください。

ラ チッタデッラは、他とは一線を画した、ある意味で“浮いた”存在でいるべきだと考えています。
刺激的な非日常空間をつくりだすために、創業よりチャレンジをし続けてきました。
LGBT関連イベントについても新しいエンターテイメントをつくりだすひとつのチャレンジです。

私たちはファッションやエンターテイメントの分野で活躍されているLGBTの方とお仕事で関わることも多く、以前から身近な存在であり、一緒におもしろいことができるのではないかと考えていました。

実際に動き出したのは2年程前で、以前からお付き合いがあり、今めかしないとの主催をすることになったDJ JURIさんに相談することから始めました。

JURIさんはLGBTのコミュニティーと幅広いネットワークを持っており、世界に活躍の場を広げる傍ら、新宿二丁目でDJ&VJ BAR 阿吽というお店のオーナーもされています。そのつながりから、川崎と新宿二丁目をエンターテイメントでつなげるイベントがおもしろいのではないか、という話になりました。
そうして第1回目の今めかしナイトが2016年の8月に開催されました。

当日はDJ JURIプロデュースのクラブイベントとして開催し、新宿二丁目で活躍するパフォーマーの方たちに出演してもらいました。

2017年1月に開催した第2回今めかしナイトは、開始時間を18時からに早め、アイドル・アニソン・ライヴ・ダンス・DJと子供から大人まで楽しめるイベントにしました。

 

第2回の今めかしないと当日は、チネチッタにて映画「ゲイビー・ベイビー」※の上映も行われましたね。

新宿二丁目とコラボしたクラブイベントと、ドキュメンタリー映画の上映というと、両極端のような感じがしますが、あえてのことでした。

ゲイビー・ベイビーに登場するLGBT当事者たちは、ある意味ごく普通の一般の人です。
新宿二丁目のパフォーマーはというと、LGBTの中でもかなりキャラクターが濃い人たちです。
LGBTといっても、いろんな人がいるということを伝えたかったんですね。
今はどうしても普通とは違うといった目で見られがちですが、みんなの生活に自然になじんでいるようにしたいと考えています。

▼イベント当日は特別にレインボーカラーになったラ チッタデッラのシンボル、ガラスのタワーは来場者から好評だった。

 

※映画「ゲイビー・ベイビー」とは
同性婚が法制化されていないオーストラリアで、同性カップルを親に持つ子供たち視点で家族の多様性をとらえた自然体のファミリー・ドキュメンタリー。

映画「ゲイビー・ベイビー」は川崎市も後援されているそうですね。

川崎市はダイバーシティな街づくりを目指しているので、一緒に何かできないかと以前から話を進めてきました。
川崎市では、市内の事業主の方にLGBTの理解促進をしたいと考えているとのことで、まずは映画上映の告知協力を行ってもらうことになりました。
実際に川崎市が声をかけてくださった企業の方が映画を観に来てくださいました。

今後の展望についてお聞かせください。

まだまだ試行錯誤ではありますが、今めかしナイトは今後も続けていきたいと考えています。
20年前に始めたハロウィンイベントも、今では多くの方に来場頂ける大規模なイベントとして有名になりました。
今後もLGBTイベントを開催しつづけることで、「ラ チッタデッラはずっと以前からLGBTフレンドリーだね」と言われるようになりたいです。

ありがとうございました!

rainbow

編集部より

イベント当日のレポートでもご紹介しましたが、1月開催時に上映されたゲイビー・ベイビーはとてもよい映画でした。
映画にも今めかしないとにも、LGBT当事者の方だけでなく、LGBT非当事者で映画ファンの方や音楽が好きな方もたくさん来られていたようです。
カルチャーを通してLGBTについて知り、触れ合うきっかけを提供するということは、とても意義があることですし、チッタさんだからこそできるのかな、と感じました。
次回開催も楽しみです!