LGBT当事者もしくはアライによる「セクシュアリティ」に関するレポートを紹介するシリーズ。
今回のテーマは「性差」についてです。
最近はダイバーシティという言葉をよく耳にするようになりました。
ひとりひとりが自分らしく生きることができる社会に。そのような考え方が昨今強まっています。
みなさんは2015年12月に出版された『ジェンダーレス男子』(双葉社)というフォトブックをご存知ですか。
男子だけどファッションもスタイルも中性的。そんなイマドキ男子の生態に迫るフォトブックです。
この本に象徴されるように昨今は旧来の固定観念に基づく「男らしさ」/「女らしさ」の枠組みにとらわれないライフスタイルを選ぶ若者が少なくありません。
そういうわけで、今回は「男らしさ」/「女らしさ」について「性差」という観点から考えてみましょう。
「性差」って何だろう
性差という言葉はよく耳にしますね。
たとえば、「男は仕事、女は家事」といったことを今どき大真面目に主張する人は多くはないかもしれませんが、そうした固定観念にもとづく性別役割分業を支持する人は、ときおり性差に言及します。
たとえば男性は女性よりも力が強い。
だからかつてヒトの祖先が狩猟採集生活をしていたときには男性が狩りをしていた。
だから外に出て働くのは男性であるべきで、女性は家庭に留まり家事を担うべきだ!といった具合に。
なるほど何だかもっともらしく聞こえますね。
いやいや、先を急いではいけません。
まずは「性差」とは何か改めてじっくり考えてみましょう。
性差とは何でしょうか?男女の違い?確かにそうですね。
しかしそれでは少し正確さに欠けるし曖昧です。
社会学者の加藤秀一氏によると、性差(ジェンダー差)とは、男性の集団の性質と女性の集団の性質とを比較したときに観察される「~である」という言い方で表すことのできる差異のことです。
さらに厳密に言えば、ある形質について性差があるというためには統計学的手法によって男女両集団の平均値を比較して両者に有意な差があるときのみ、その特徴について「性差がある」と言うことができます。
(『ジェンダー入門―知らないと恥ずかしい』(朝日出版社))
生物学における性差の議論
そしてこうした厳密な立場に立った上でもなお「性差がある」と主張されている男女の特徴は実際に存在します。
たとえば身長は容易に性差があることを直感でも理解することができると思いますが、それを超えた水準でも多くの主張が展開されています。
たとえばケンブリッジ大学の心理学・精神医学教授のサイモン・バロン=コーエン氏は、その著書『共感する女脳、システム化する男脳』の中で、「女性型の脳は共感する傾向が優位」で、「男性型の脳はシステムを理解し、構築する傾向が優位」であると主張しています。
それを男の子と女の子が好むおもちゃの違いや、狩猟採集生活時代の男女の分業の説明につなげています。
進化心理学者のデイヴィッド・バスは、嫉妬の性差を進化の過程の繁殖戦略の違いに求めています。
あるいは認知言語学者のスティーヴン・ピンカーは、ジェンダーをめぐる旧来の固定観念の中には、進化的基盤を有する妥当なものもあると主張し「男女の差異は生物学的要素とは無関係で、すべて社会的に構築されたものである」と主張するジェンダー・フェミニズムに批判を向けています。
そのほか進化心理学者のスーザン・ピンカーによる著書『なぜ女は昇進を拒むのか―進化心理学が解く性差のパラドクス』でも男女間の本質的な差の存在を示唆する類似した立場の議論が展開されています。(この点に関しては意見の対立が根強く存在していますが,ここでは言及しません。)
-後編につづく-